短編小説

181回後編

短編小説第181回、後編です。 前編から、随分と時間が経ってしまいました……。 - その日はどちらが誘ったわけでもなく、自然な流れでホテルに向かった。 リコは美しかった。年齢を重ねたが、痩せた身体には、むしろ凹凸ができていた。 モリタには、昔の持久力…

第181回

短編小説第181回です。 今回もまた2回連続、前編後編ものです。 - 「お前、リコか? 久しぶりー。ずいぶん綺麗になったなー」 アメリカに行った元同僚が帰ってくる、ということで、久々に仲間内で集まることになった。 もう三年は会っていない人間ばかり。借…

第180回 その2

短編小説180回 その2、後編です。 前回は、前編でした。 よろしければ、前編からお読みください。 - 戦争は、突然に村を巻き込んだ。飛び魚のトビオとマルオは、海の中を必死に逃げた。どこに逃げていいのかは、わかっていなかった。ただ走った。 全速力での…

第180回

短編小説第180回目です。 年末だから、というわけではありませんが、今回は2回連続、前編と後編にわけてやってみたいと思います。 - トビオは全速力で泳いだ。血管がちぎれそうになる程全身に力を込めて身を乗り出したが、マルオはすいすいと先を泳いでいた…

第179回

短編小説179回です。 書いている事は、書いているので、少しでもブログに移そうと思います。 - 麻酔が覚めて、光(ヒカリ)は意識を戻した。 目の前は暗い。包帯が巻かれていて、瞼を上げることがかなわなかった。光はおそるおそる尋ねた。「成功……した?」 …

第178回

短編小説第178回目です。 原稿自体は、もちろんだいぶ昔に書き上げていたのですが、掲載するのが、すっかり遅くなってしまいました。 なんと、5月からまったく掲載していなかったのですね。 - この宇宙空間に近いこの場所からは、太陽は地上よりもはるかに激…

第177回

短編小説第177回目となります。 - 遠くに見える一本の樹に、赤い実がなっているのを、神様はふと気づいた。それはとても大きくて、まるまるとした実だった。 神様は、その実が一体何の木の実なのか気になったが、土地を守っている以上、そこを離れるわけには…

第176回目

- 兄の何が頭に来るって、得意気に報告してくることだ。 まるで、でかい魚でも釣り上げたかのような勝ち誇った顔で、どんな話が妻にウケたのか、逐一伝えてくる――。 米田(ヨネダ)が兄を信頼できなくなったのが、いつからなのか、本人ももう覚えてなかった。

175回目

短編小説第175回目です。 時々、なんかいめなのか忘れるくらいには、たくさん書いてますね……。 - 「あー、ごめんごめん。なんだークーラー付けてればよかったのにぃ」 一人暮らしを始めた姉と会うのは、三ヶ月ぶりのことだった。 小さな六畳間は、可愛らしく…

第174回

こういうテイストのお話は久々かもしれない。 - 虎は、飾りとして壁に打ち付けられていた。 もうどれほど前のことになるだろうか。この館の主が、遊びで野獣狩りを行った。 運悪く、彼はその時に仕留められた。後にも先にもこの虎ほど立派な“勲章”は現れなか…

第173回

短編小説第173回目です。 世間では、新しいiPadが発売された日なんですが、いつもこぞってMacネタを披露しているくせに、こんな日は別エントリです。 - 萩原(ハギワラ)は医者だった。午前の診療を終え、つかの間の休息をとっていると、ふと、昔付き合って…

第172回

短編小説第172回です。 前回は「パイナップル」でしたので、しりとりでテーマを決めているこの短編小説。 次は、「る」で始まる言葉をテーマとします。 - 戦争は治まる気配を見せず、泥沼にはまっていた。兵も国民も疲れ果て、資源はとうに尽きた。 火薬もな…

第171回目

短編小説第171回目です。 まさかの2月、まったく更新していませんでした。 ……忙しいとダメですね。 - 口に含んだ瞬間に、芳醇な香りと甘酸っぱい思い出が広がった。 あの時のことだ――。思い出というよりは、理解できたと言うべきだろう。沙由美(サユミ)は…

第170回

短編小説第170回目になります。 ついにきてしまったかー。 - 「後藤田(ゴトウダ)さん、この前はまた立派なものをいただきまして……」 その年初めて顔を合わせる人には、夫は決まってこう言われた。 妻が贈ったお歳暮のことだ。この季節になると、妻は百貨店…

169回

短編小説第169回目です。 いよいよ、170回目も間近? - 久しぶりと言っても、積もる話があるわけじゃない。 会話が途切れると、息子は車内に流れる電光掲示板に目を逸らした。 「あ、次で乗り換えたほうがいいわ」 「さっき調べた駅じゃないの?」母親は、わ…

第168回

短編小説第168回です。 168って、13の乗数かな、と思いきや、全然違いますね。 - トメ吉は、たいそう人が良かったもんだから、村の者には彼を利用してやろうとするタチが悪いのが、少なからずいた。 バカ正直というのか、トメ吉を騙すようなことをして、勝手…

第167回

短編小説第167回です。 今、スターバックスに来ているのですが、両隣がPC + スマートフォン + モバイルWi-Fiルータという組み合わせ。 つまり私と合計で3連チャンです。 時代です。 - 山岡(ヤマオカ)はバスの運転手で、その日は社会科見学にお出かけした小…

第166回

短編小説第166回です。 なんだか、160回台が長いような気がしますが。 - 爪を噛む癖を、ようやく治せたと思っていた矢先だった。 小学生の息子が、ゲームセンターの店先に置いてあるクレーンゲームに異様なほどの興味を示すようになった。 何度も注意して、…

第165回

短編小説第165回です。 この回は、野球選手をモチーフに書きましたが、先日巨人戦を観に行きました。 その様子はまた今度。 - 毎年優勝を争う名門プロ野球チームに、二人の選手がいた。 二人とも、すごく練習する。しかし、その絶対量を比べれば、木戸(きど…

第164回目

短編小説第164回目となります。 この短編小説を更新に交える事で、もっと更新頻度があがるというのに……。 - 「あー、また失敗したー!」妻の苛立った声に、洋介(ようすけ)は台所を覗いた。 時計は、十二時を回っている。大きな声は、家の外にも響くだろう…

第163回

短編小説第163回となります。 - 母が亡くなって、エリナは天涯孤独の身になった。 家族が、自分だけの一人になった、というのもある。だがエリナの場合は、状況が違った。国家との繋がりがないことが、わかってしまったのだ。 エリナは、この国の人間ではな…

第162回

短編小説第162回目です。 この前は、「海(うみ)」でしたので、その続きで「み」で始まるワード。 - 同期の女性教師が、先に結婚してしまうそうだ――。 勝又(カツマタ)は、婚期を逃している年齢ではなかったが、少し落ち込んでいた。 そう言えば彼女には、…

第161回

短編小説第161回です。 またちょっと間が開いてしまったけど、忙しくてしょうがなかったので、気にしない気にしない。 - それはカメラだった。いつも、そしてずっと、空を写していた。 なぜそれが、そこにあるのか――? 誰かが、それを置き忘れていったからだ…

第160回

短編小説第160回です。 区切りを堺に滞っていたとは……。 - 懐かしい人からのメールだった。ずっと連絡が途絶えていた前の会社の同僚A君。 久しぶりのメールに、彼はケータイを握りしめた。もう少し遅かったら、連絡が取れなくなっていたかもしれない。 あれ…

第160回

短編小説第160回です。 ブログを書く服……暇がない。 - 殺気立っいたはずの部署のメンバは、一様に肩を落として歩いていた。 マンションに不法侵入するなんていう、とんでもない行為を決行したのは、みんなの人気者のタク君が、マンションの住人である女性部…

第159回

あけましておめでとうございますの、短編小説159回目です。 - とある地方の教育委員会が、地元の歴史教育に力を入れていく方針を示した。教師は生徒たちが地元に興味を持てるよう、あらゆる史実を調べた。そして困ったことになった。 その地方には、風土の基…

第158回

短編小説第158回です。 なんと、病気していたこともあり、12月8日以来。 ブログの更新自体も少なめでしたね。 - 登山家は山をなめていた。プロとしての心構えを怠った。経験が、余裕を贅肉に変化させていた。 登山家は崖の上で身動きが取れなくなっていた。…

第157回

短編小説第157回目となります。 ちょっと、間があいてしまったかな……? - 「やっぱり婆ちゃんに恩返しかな。僕は婆ちゃんの豆腐入り味噌汁で育ったから」 色白のこの男は、アメリカ人ではない。日本人として初めてアメリカのプロバスケットボールMVPに輝…

第156回

モニタのことを書いている最中ですが、ここで流れをぶった切って、短編小説第156回となります。 - 「おや、相部屋の方がいたんですね」 「え、相部屋? 聞いてないんだけど」 「私も聞いてはいませんよ。でも、ここに入るつもりんなんでしょう? 私もです。…

第155回

短編小説第155回となります。 - 萠(めぐむ)は、中学生にして、一人の先輩を好きになった。 それまで話したこともなかったので、押しかけるようにして友達になってもらった。仲良くなってからは、毎日電話をかけた。 先輩と話していると、萠は時間を忘れた…