第170回

短編小説第170回目になります。
ついにきてしまったかー。


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「後藤田(ゴトウダ)さん、この前はまた立派なものをいただきまして……」
 その年初めて顔を合わせる人には、夫は決まってこう言われた。
  妻が贈ったお歳暮のことだ。この季節になると、妻は百貨店のカタログを睨み、誰に何を贈るなどと、入念に準備していた。
 贈った人からは、非常に丁寧に、そして神妙にお礼を言われた。
 気になった夫は、妻に明細を見せるように言った。だが、たいした金額の贈り物はしていなかった。
 手書きの手紙などを添えることによって、大仰な仕上げにしているだけなのだという。
 妻にとって、夏冬の贈り物は、一大事業だ。
 なぜそこまで熱心に取り組むのか、夫には理解ができなかった。ただ妻が贈り物をする度に、仕事にも良い影響が出ているので、何も言わなかった。会社でも取引先でも、このお中元とお歳暮があるおかげで人間関係が円滑に進むのだ。
 古風な妻ではあった。特に仕事の内容を伝えてはいなかったが、妻は夫にとって重要な人物を心得ているようだった。
 大抵そういう人間は、先に贈ったこちらが申し訳なく思うほどのお返しをくれる。
「あら、これは立派なものをいただいたわね」
 その内容は、決して物品に限らなかった。
  とある取引先からは、破格の報酬で、ヘッドハンディング……スカウトが送られてきた。飛ぶ鳥を落とす勢いの成長企業だった。
 普段からのその実力をぜひ、当社でも――。人事の方はそう言って頭を下げた。
 贈り物のお礼が、年々すごい豪華になっている。
 初出社の日には、新品の制服が仕立て上げられ、シャツはぱりっと乾いていた。
 サイズに少し余裕があるようだ。身の丈にあってないのは、贈り物だからだろうか、と夫は思った。

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短編小説第170回目、テーマ「立派」でした。


なんとういか、そのまんまの内容でしたね。