第164回目

短編小説第164回目となります。
この短編小説を更新に交える事で、もっと更新頻度があがるというのに……。

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「あー、また失敗したー!」妻の苛立った声に、洋介(ようすけ)は台所を覗いた。
 時計は、十二時を回っている。大きな声は、家の外にも響くだろう。
「おい、いつまでやってるんだよ、早く寝ろよ」
「ほっといてよ、ちゃんとつくりたいんだから」
「有花(もか)が目を覚ましちゃうだろ?」
 幼稚園に通う娘は、特別早く寝た。明日はお出かけ――新幹線で祖父母の家への帰省だ。
 何日も前から楽しみにしていたが、妻はまた急な仕事で来れない。これ以上、娘の機嫌を損ねたくはなかった。
「先に寝ておいてよ、私、これ仕上げないと寝られないから!」
 妻は毎日深夜まで働いていた。家事をこなさないのも、午前帰りも仏頂面も固定されている。
 今回の帰省に、弁当を作ると言い出したわけが、洋介にはわからなかった。
 普段から自分が作っているのだから、まかせればいいものを――。
 昼が近づき、二人は新幹線の車内で弁当を広げる。娘が感嘆の声を上げた。
「パパー、お弁当かわいいよー」
 洋介のは、地味なサラリーマン弁当。娘が開いた弁当を覗き込んだ。
「熊さん、食べるのもったいないー」
 最近流行っているという、食材を漫画のような絵で並べた、いわゆるキャラ弁だった。
 今日も妻が一緒じゃないことで、少しぐずっていた娘の瞳がアークを描いている。
 挽回したかったわけか――。洋介は、ようやく妻の行動を納得した。仏頂面でも、引け目は感じていたわけだ。
 洋介は、娘の顔を写真にとって、妻にメールする。
 妻はまさか、自分の顔を写真メールしてくるなんてことは、しないだろうが……。

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短編小説第164回目、テーマ「にこにこ」でした。


……そのまま?