第168回

短編小説第168回です。
168って、13の乗数かな、と思いきや、全然違いますね。

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 トメ吉は、たいそう人が良かったもんだから、村の者には彼を利用してやろうとするタチが悪いのが、少なからずいた。
 バカ正直というのか、トメ吉を騙すようなことをして、勝手に物をせしめたりするのだ。
 善人にはさらに悪いものが寄りつくもんで、トメ吉の娘は、流行り病にかかってしまった。
 なんと、ろくろっ首になっちまうという悲しい病だ。
 トメ吉には金がなかったが、日頃からトメ吉のことを気の毒に思っていた町医者は、カモの肉を食わしてやれば、徐々にろくろっ首も回復する、と教えてやった。
 カモには首がないから、それにあやかるというのだ。
「おとっつぁん。もう私のことはいいから、自分のことをやっておくれ」
 娘がそうせがむほど、トメ吉は来る日も来る日も、カモを狩りに出かけた。そのかいあってか、娘のろくろっ首は、次第に回復してきた。
 すっかりカモ狩りの名人になったトメ吉は、食べきれないカモを売りに行けるほどになった。生活は、カモのおかげで楽になった。
 トメ吉の狩ってくるカモは、いい味がする上等なものだと、評判になっていった。
 村にはトメ吉を欺こうとする者がまだまだいて、ろくろっ首の病は、ますます感染を広げていた。
 ある日トメ吉は、ろくろっ首になってしまった村人を訪ね、カモをふるまってやった。
「すまねえなぁ。おらんとこのろくろっ首が、おめえさにうつっちまったのかもしれねぇ」
 村人はニコニコしながら答えた。「構わん、構わんよ。あたしゃぁ、あんたがカモを持ってきてくれるのを首を長くして待ってたんだぁ」
 首が長くて働きに行けなくてね――。村人が言うとトメ吉も神妙に頷いた。
「そうだなあ。お医者さんは、儲かってるみてぇだがなぁ」

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短編小説第168回、テーマ「カモ」でした。