第166回

短編小説第166回です。
なんだか、160回台が長いような気がしますが。

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 爪を噛む癖を、ようやく治せたと思っていた矢先だった。
 小学生の息子が、ゲームセンターの店先に置いてあるクレーンゲームに異様なほどの興味を示すようになった。
 何度も注意して、癖をやめるように頑張らせていた負い目もある。一度だけだから、とやらせてみて……後悔した。
 癖は生来のものだから、無理矢理治したことによる、反作用もあったのだろう。
 単純そうなクレーンゲームに、息子は、ひどく“ハマった”。
 お小遣いを与えると、全額をクレーンゲームに費やす。クレーンゲームがやりたくてやりたくて、そのために生きているような子供になってしまった。
 始末が悪いのは、息子は決して景品がほしくてこのゲームをやっているわけではないことだ。
 ぬいぐるみやおもちゃを獲得すると、息子はそのまま仲の良い友達にあげていた。あの景品が取れるまで――という区切りがない。
 純粋な楽しみなら、まだ許すことができた。
 息子がクレーンゲームに没頭するさまは、どことなく不気味なところがあった。
 クレーンがゆらゆらと動く。その時息子は、性的な興奮を味わっているかのような、気味の悪い笑みを浮かべていた。
 このゲームに、魂を奪われる――。その親は、背筋が凍りつきそうな恐怖を感じた。
 なのに、すぐにやめさせることができない。クレーンゲームは息子の生きがいになっていた。今となっては、口を挟むことは難しかった。
 今日もまた息子にゲームセンターに連れていかれた。
 見事なもので、ぬいぐるみがまた一つひっぱり上げられていく。
 息子はクレーンをじっと見つめていた。
 爪先の輝きを見て、よだれを垂らしていた。

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短編小説第166回、テーマ「爪」でした。



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