第180回

短編小説第180回目です。
年末だから、というわけではありませんが、今回は2回連続、前編と後編にわけてやってみたいと思います。

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 トビオは全速力で泳いだ。血管がちぎれそうになる程全身に力を込めて身を乗り出したが、マルオはすいすいと先を泳いでいた。
「ちくしょう。こんな時でもマルオに勝てない……」
 トビオとマルオは若い飛び魚だった。海からその身を投げ出して、空と水面の間を切り裂く。その感覚がたまらなく好きだった。
 今の二人は、逃げていた。村長が知らせてくれた戦争。突如始まったそれによって、村の大部分が死んだ。鉛が降ってきたと思うと、急に爆発して、一瞬でみんなぶっ飛んだ。
 戦争は、知らないどこかで行われているらしいが、ここにいる限り、自分達は皆殺しになることは明らかだ。……逃げなければいけない。
「お前はいつだって俺に勝てないな」冗談めかしてマルオが言った。「太陽ばっかり見てるからだよ。今日は……今日だけは付いて来いよ」
 トビオは何も言い返せなかった。口を開くと、泣きたい衝動にかられる。
 空と水面の間だけではない。いつか、太陽に向かって垂直に飛んでみたい。ロウの羽とやらを溶かしてみたいのに。戦争と言われるまでは、いつだって心にあったことなのに、今はどこか、どこか昔のことのようだ。
 どうして、こんなことになった。
 どうして、いつも負けてばっかりなんだ――。
「なあ、戦争ってさ、やっぱりトリが攻撃してきているのかな」マルオが言った。「大人達って、俺達が海から飛んでいると、いっつも血相変えただろ?」
「マルオは、トリを見たことがあるのかよ?」
「見たことないけど……こんなひどいこと、トリ以外に誰がやるんだよ」
 マルオは喋りながらも、海を進む。今日もトビオは、彼の後を追うしかなかった。
 逃げろと言った村長や大人達は、突然やってきた爆発によって、海の塵となった。

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短編小説第180回。
テーマは、後編を掲載してから発表しますね。
実は、一度やったことのあるテーマに再挑戦してみました。