第157回

短編小説第157回目となります。
ちょっと、間があいてしまったかな……?

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「やっぱり婆ちゃんに恩返しかな。僕は婆ちゃんの豆腐入り味噌汁で育ったから」
 色白のこの男は、アメリカ人ではない。日本人として初めてアメリカのプロバスケットボールMVPに輝いたトミオ・カミカゼは、そう語った。
 彼の転機となったのは、ジャパンの食品加工会社が、専用のバスケットシューズを開発してからだ。トミオがCMに出演している。
 もう一度言おう。食品加工会社が、シューズの開発をした。
「婆ちゃんの味噌汁くらい、キクね。これを履いてから、足にかかる衝撃が和らいだんだ」
 彼を地元の名士に育てることしか頭になかった企業は、シューズを他の選手に提供しなかった。トミオは、シューズがなければ今の自分はありえないと言う。
「僕は試合中ほとんど水を飲まない。このシューズから水分を補給できるんだ」
 多くのメーカがシューズの保湿化に挑んだ。だが、足元がたぷたぷするだけだった。
 シューズの色にあいまって、高くジャンプする(これもシューズの反発能力のおかげだ!)トミオの姿は、ホワイト・イーターとして、対戦相手から恐れられた。
「今日は、婆ちゃんが味噌汁作ってくれるから、元気百倍ですよ」
 彼の祖母は高齢のため、孫の試合を見たことがなかった。連覇がかかったこの晴れ舞台に、ようやく間に合った。
 トミオは躍動した。いつも以上の活躍を見せた。だが、祖母はだんだんと顔を青くしていった。
「トミオ!」あらん限りの声を上げて、祖母が席を立つ。家族の声に敏感なトミオが動きを止めた。
「あんた! 食べ物を靴に入れて踏んづけるなんて、どういうことだい!」
 シューズの秘密が公になった瞬間だった。どうりで、コートが豆乳くさいはずだった。

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短編小説第157回目、テーマ「豆腐」でした。


……くだらんか

Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)