第181回

短編小説第181回です。
今回もまた2回連続、前編後編ものです。

                                                                                                                                          • -


「お前、リコか? 久しぶりー。ずいぶん綺麗になったなー」
 アメリカに行った元同僚が帰ってくる、ということで、久々に仲間内で集まることになった。
 もう三年は会っていない人間ばかり。借りっぱなしのマンガの持ち主すら、覚えていない。
 モリタは、懐かしむ声の方に顔を向けた。自然消滅的に別れた、いや、狙って自然消滅させた昔の恋人、リコがそこにいた。
「整形したのか?」案外、何事もなかったかのようにモリタから話しかけることができた。
 リコは、少しだけ驚いたような顔をして、そしてすぐに微笑んだ。
「失礼ね。みんなには肌艶がよくなったように見えるんでしょ」
「前だって別に病気だったわけじゃないじゃないだろ?」
「背負っていたものを返済したって言い換えたほうがいいのかもね」
 いろいろと吹っ切れて、今は男に恵まれている。あるいは、金がある、ということだろうか――。
「悔しい?」リコはモリタの顔を覗き込んできた。「昔の恋人が今の自分よりも充実しているって、面白くないものじゃない? モリタ君、今何やってるんだっけ?」
「うだつのあがらないサラリーマン」
「卑怯な別れ方をくれた、誰かさんに仕返しするために、頑張ったんだから」
 確かに、リコが弱ってくれていたが、楽しかったかも知れない。
 美しくなった代わりに借金ができた、その額が膨らんだ、という話が聞きたかった。モリタとの日々が素晴らしいものだったと、再認識してもらうために。
「でも、それって変だよね」リコは続けていた。「本当はモリタ君の方が、返さなきゃいけないのに。私じゃなくて、昔の……モリタ君自身に」リコの声が、小さくなった。

                                                                                                                                          • -

短編小説第181回、前編でした。
テーマは、後編が終わってから。


めずらしくアダルトな雰囲気です。


Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)