第180回 その2

短編小説180回 その2、後編です。
前回は、前編でした。
よろしければ、前編からお読みください。

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 戦争は、突然に村を巻き込んだ。飛び魚のトビオとマルオは、海の中を必死に逃げた。どこに逃げていいのかは、わかっていなかった。ただ走った。
 全速力での疾走は、トビオがマルオに負けていることを明確にした。
「急げトビオ!」マルオが叫んだ。
「もうだめだよマルオ、俺はマルオみたいに速く泳げないし、飛べもしない」
「……今は泳ぐしかない。さっき遅れた子供みたいに、爆発に巻き込まれて死ぬぞ?」
 少しでもスピードを緩めれば、爆発に追いつかれる。
 トビオはもうくたくただった。疲れると、太陽を思い出した。仲間が、どんどん死んでいくというのに、夢なんて今は思い出すだけ滑稽だった。辛すぎて、トビオのスピードが、だんだんと落ちた。
「トビオ! 何やってん……」マルオが振り向く。足を止めた瞬間に、爆発が彼の身体を飲み込んだ。
 今度は、前方に爆弾が降ってきたのだ。トビオはマルオから遅れていたから助かった。少し進んでたら、死んでいた。
 速く泳いでもそうでなくても、爆弾には勝てない。
 トビオは走るのをやめた。長い時間その場に漂い、海が静かになってから、水面に顔を出した。
 外は穏やかだった。陸からの応戦もやんでいた。
 トリがいた。
 トビオはトリを初めて見た。ブーンという妙な鳴き声をあげながら空を展開する鉄の翼。
 あれだけ海に爆弾を降らしていたのは、たった一羽のトリだったのか――。
 ゆっくりと旋回するトリの横では、太陽が煌々と輝いていた。
 トビオは飛んだ。いつものように水面と平行に飛ぶのではなく、空に向かって飛んだ。

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短編小説第180回、テーマ「鳥」でした。

前回は、129回目に同じく「鳥」をやっていました。
http://d.hatena.ne.jp/sorasemi/searchdiary?word=%C2%E8129%B2%F3

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