第160回
短編小説第160回です。
区切りを堺に滞っていたとは……。
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懐かしい人からのメールだった。ずっと連絡が途絶えていた前の会社の同僚A君。
久しぶりのメールに、彼はケータイを握りしめた。もう少し遅かったら、連絡が取れなくなっていたかもしれない。
あれから、二年が経っていた。
長そうで短いこの期間。自分にとってそうであったように、A君にもいろんなことがあったようだ。味気ない文章に、その様子が伺える。
A君は、異動になっていた。
当時一緒に仕事をした部署とはちょっと離れていたが、出世をしたことになる。
おめでとう――。彼は、お祝いも兼ねた返信をすることにした。
次の日は、また違う懐かしい人からの便りが届いた。大学時代の親友B君だった。
すぐに会えるからと連絡を怠っていたら、もう二年が経ってしまった。
メールが来るのがもう少し遅かったら、音信不通になっていたかもしれない。
自分もそうであったように、B君も苦労したようだ。軽やかな文章にその様子が伺える。
B君は、入院していたようだ。
メールは、退院の報せだった。
B君はスポーツが得意で、健康そのものに思っていたが、ニ年も経つとわからないものである。
お見舞いも行かず、申し訳ない――。彼は、お詫びも兼ねた返信をすることにした。
時間は、みんなに平等だ。次のステップに移らせたり、悪い状況から脱出させてくれたりもする――。彼は、感慨深くケータイの液晶画面を見つめた。
自分のこれからについても、連絡しなければならない。彼は、返信を打ち始めた。
「ご無沙汰しています。この度ケータイを乗り換えることにしました。電話番号は変わりませんが、メールアドレスは、こちらに変更をお願いします」
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短編小説第160回、テーマ「異動」でした。