第165回


短編小説第165回です。
この回は、野球選手をモチーフに書きましたが、先日巨人戦を観に行きました。
その様子はまた今度。

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 毎年優勝を争う名門プロ野球チームに、二人の選手がいた。
 二人とも、すごく練習する。しかし、その絶対量を比べれば、木戸(きど)に軍配が上がった。
 木戸の練習量は、尋常ではない。常に練習、いつも練習。食事を取る暇があったら練習、といった具合で、もう一人の千波(せんば)も、暇があれば見学に来るほどだった。
 千波は、木戸の鬼気迫る練習を目の当たりにして、また自分を奮い立たせる。
 二人の間でも、いいライバル関係が成り立っている。チームの首脳陣も安心していた。
 不満を表したのは、木戸の方だった。何年経っても、木戸の練習量はすさまじかった。
 しかし、木戸の成績は千波の下を行っていた。毎年だ。これはもう、才能以外の何かがあると思った木戸が、千波に噛み付いたのだ。
「確かに、練習量ではお前の方が多いだろうな。だが、俺は勝つための練習をしてきた。それがお前との違いだ」言いがかりをぶつけられた千波も黙っていなかった。
「ふざけるな! 俺だってチームが勝利するために練習をしてきたんだぞ?」
「だから、お前には負けるかもしれんが、俺も練習したんだよ。勝つための、な」
「一緒にするな! 俺はな、ここ数年、毎日五千回の素振りを欠かしたことはない」
「ああ、お前の練習は、よく見ていた。お前の良い時も悪い時も、よく知っている」
「そうやってさぼっていたお前より、俺の方が下っていうのが、気に食わないんだよ!」
 才能だって、それほど変わらないはずなのに、おかしいじゃないか――。木戸は、憤慨したまま練習に戻っていった。それからまた、人生のすべてを練習に捧げた。
 千波もたゆまぬ努力を続けたが、木戸の練習をのぞきに来る時間だけは作った。
 木戸は、引退するまで千波の成績を上回ることはできなかった。

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短編小説第165回、テーマ「コツ」でした。