第174回
こういうテイストのお話は久々かもしれない。
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虎は、飾りとして壁に打ち付けられていた。
もうどれほど前のことになるだろうか。この館の主が、遊びで野獣狩りを行った。
運悪く、彼はその時に仕留められた。後にも先にもこの虎ほど立派な“勲章”は現れなかったので、以来彼は壁に誇らしげに掲げられることになった。
毛と皮だけになって、平べったくなった身体が恥ずかしく、そして悔しかった。
長い間来客という来客に彼の姿はさらされ、彼は恨みを強めていった。
「こんにちは。ずいぶんとつらそうですね」
やがて、館に新入りが現れた。主のペットの猫だった。
虎は、この釘を引き抜いて自由にしてほしいと、猫に言った。だが、猫の小さな体には無理な相談だった。
「最近音楽鑑賞専用の部屋ができたんです。主人はよくそこにいます」
代わりに館のことを聞いた。猫は自由に歩き回れる。自分の知ることのできない館の構造を熟知していた。
いつか、この釘が抜けた時にどう動けば館の主まで辿りつけるか。虎は主の喉笛を噛み切れる日が来ることを想像して日々を打ち付けられたまま過ごした。
そんな日は来なかった。
「そろそろ、お別れを言っておきます」
いつの間にか猫も大きくなり、寿命の残りが見えるようになった。
虎は寂しくなった。報われない自分だけ一人残るのは無念だった。どうか行かないでほしい、と虎は言った。
「私も、あなたと一緒にいたいです」猫は答えた。
「だけど、あなたはずっとそこに打ち付けられたままではないですか。もう身体もないのに……」
猫はやがて生き絶えた。虎はまた一人になった。
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短編小説第174回、テーマ「釘」でした。
Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)