第161回
短編小説第161回です。
またちょっと間が開いてしまったけど、忙しくてしょうがなかったので、気にしない気にしない。
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それはカメラだった。いつも、そしてずっと、空を写していた。
なぜそれが、そこにあるのか――? 誰かが、それを置き忘れていったからだった。それは、ずっとそこにあった。
雨の日も晴れの日も、強い日差しの日も大雨の日も、それは空を写した。
できあがる写真は、いつも空の姿をありのままに写していた。晴天ばかりが続くわけではない。空が荒れ狂っているのなら、それもその通りの姿を見せた。
空を写し続けることが使命だと、それは空を写し続けていた。
いつのころからだろう。さまざまな空の姿を表すそれには、生き物が寄ってくるようになった。
魚がそれを拠り所とし、鳥がそれで生活を営んだ。
それは、何も言わなかった。変化に気づかずにただ、変わらず空を写し続けた。
それが自分の変化に気づいたのは、クジラがレンズを破り、飛び跳ねた時だった。空の写真は、一瞬途切れた。それは、ようやく自分の姿を省みた。
それの表面は、風になびいていた。寄ってきた生き物たちとともに、遠くまで旅をしていた。
それは自分と空とを見比べた。もはや自分は、空を写す鏡ではなかった。空と同じくらい、自分だけの表情があった。
それは泣いていた。体には、たくさんの水をたたえていた。生き物たちは、それの子どもとなり、仲間となっていた。
泣いていたのは、孤独だったから――。
「誰が、君を忘れていったんだろうね」ある時、子どもが尋ねた。
「誰だろう、きっと神様じゃないかな」それは優しく答えた。
子供はにっこり笑って、それにじゃれついた。「でも、僕は君のことが大好きだよ」
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短編小説第161回、テーマ「海」でした。
なんという基本的な言葉が回ってきたことか。
ということで、ちょっとかっこつけた文体だったかもしれません。