第158回

短編小説第158回です。
なんと、病気していたこともあり、12月8日以来。
ブログの更新自体も少なめでしたね。

                                                                                            • -


 登山家は山をなめていた。プロとしての心構えを怠った。経験が、余裕を贅肉に変化させていた。
 登山家は崖の上で身動きが取れなくなっていた。少しでも動けば、落下してしまうような位置だった。
「僕らはメルヘン救助隊です」やがて、かわいらしい救助がきた。確かにメルヘンチックな体型だった。赤ん坊の背丈ほどしかない。いよいよお迎えが来たか、と思った。
「あなたを担いで山を降りる力はないけど、食べ物なら、差し出せます」
 登山家は拒否した。「いや、私は死ぬべきだ。山を侮辱した。引き返せさなかった私は、山男失格だ」
「僕らにはわからないよ、その考え」メルヘン救助隊の一人が言った。「あなたは、心がひもじいのね。おなかいっぱいにならなくちゃ」
 メルヘン救助隊は登山家にスープを飲ませた。そして、次の日もやってきた。相変わらずひどい吹雪で、レスキュー隊が助けにくる気配はなかった。メルヘン救助隊は、律儀に食べ物を運んできた。
 何日かはわけもわからずに食べ物を受け取った登山家だったが、やがてこの状況にも慣れてきた。
 孤独だが、ただで食べていける。これで良いかもしれないと思うようになった。
「やはり山は怖い。甘いものがあればなぁ」登山家は、メルヘン救助隊に要求した。
「大変だ! 登山家さんをはげまさなきゃ」メルヘン救助隊は、チョコレートを持ってきた。
「お腹が痛い。パンを食べないと……」
「パンがあれば、治るね!」
 こんなやり取りが続いた。崖には知らない間に、ひびが入り、そして崩れた。落下した登山家は死亡した。
 でっぷりと肥えた登山家の身元が判明するのに、非常に手間取ったということだった。

                                                                                            • -


短編小説第158回、テーマ「太った」でした。
最近の私は、太りはしてませんが、肩が凝って仕方がないです。


働き者ですからねっ!
Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)