169回

短編小説第169回目です。
いよいよ、170回目も間近?

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 久しぶりと言っても、積もる話があるわけじゃない。
 会話が途切れると、息子は車内に流れる電光掲示板に目を逸らした。
「あ、次で乗り換えたほうがいいわ」
「さっき調べた駅じゃないの?」母親は、わからないなりにドアの上部にある路線図に顔を向けた。
「線路の破損がないか緊急点検だって」
 乗り換えれば遠回りにはなるが、停車しているよりかは早く到着する。芝居を観に行くために上京した母親を、息子が案内することになっていた。
「たくましくなったねぇ」
「馴れただけだよ……うわっ」
 二人は電車を降りる。ホームを移動しようと階段に昇ろうとして、息子は足を滑らた。
「大丈夫かい?」
「だ、大丈夫……」
 尻もちをついた息子と違って、母親はひょいひょいと足を運んでいた。
「カーチャン、でこぼこでも、平気そうだな」
「お母さんが子供の頃は、どこもこんな感じだったんだよ」
 二人が歩く階段には、壁や床面を突き破った木の根が、まばらに茂っていた。線路の破損チェックというのは、こういった根っこを点検するのだろう。最近では珍しいことではない。
「時代が一周したのかねぇ」
 息子はぶつぶつとぼやいたが、母親はにこにこしていた。
「カーチャンがOKなら、歩いて行こうか」
 息子は、乗り換えのホームには向かわずに駅の出口に向かった。「まだちょっと距離あるけどさ」
「お母さんは、どっちでもいいよ」
 二人は羽を広げた。並んでビルとビルの隙間を飛んでいった。
「東京は高い建物ばかりだねぇ」

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短編小説第169回、テーマ「森」でした。
「この東京砂漠〜♪」からヒントを得たわけではありません。


首都圏広域鉄道路線図

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