第179回

短編小説179回です。
書いている事は、書いているので、少しでもブログに移そうと思います。

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 麻酔が覚めて、光(ヒカリ)は意識を戻した。
 目の前は暗い。包帯が巻かれていて、瞼を上げることがかなわなかった。光はおそるおそる尋ねた。「成功……した?」
「ああ、手術は大成功だ」先生の声が聞こえた。「明日になれば、光ちゃんの目は見えるようになる」
 先生はいつも通り優しい。優しい“声”。明日になれば、優しい顔になっているのだろうか。
「信じられない」光は言った。「だって、まだ何も見えないんだもの」
「今は、まだ手術が済んだばかりだからね。でも絶対だ。明日になれば、目は見える」
「絶対の、絶対?」
「絶対に、だ。先生を信頼して。だって、この看護師さんもお母さんも、お父さんもこの手術を受けて、目が見えるようになったんだよ」
 この手術を受けて、目が見えないままの人間はいない――。光は震える心を抑えようとした。自分だって明日になれば……。
「わかったわ。もう一回寝れば、きっとね」
「きっと……じゃない。絶対に、だよ、光ちゃんは手術をがんばったんだ。明日になっても、見えないなんてことは絶対にないんだ。もしあったとしたら、それはとてもとてもおかしなことだ。だから安心して」
 光は再び眠りに落ちた。
 朝になると心を踊らせて目を覚ました。
「今、何が見えますか?」包帯は、ゆっくりと外される。
「え、えと……」光は返答に困った。
「ははは。そうか、先生の顔も初めて見るもんな」どうやらそこにいるのは、先生らしい。光はつられて笑った。
「先生、これが見えるってことなのね……。辺り一面真っ暗だけど、これって、見えているってことなのよね」

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短編小説第179回目、テーマ「きっと」でした。
年の瀬に、明るくない話題ですね。