第137回

短編小説第137回となります。
のらりくらりと137回目。

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 宅配便の仕事をしている知り合いから聞いた話です。
 ある日、冷凍もされていない、不審なカレーライスを届けてくれるよう、頼まれました。
 近所ですから、自分でやればいいのに、と思ったそうですが、代金も頂いたので、しぶしぶ引き受けました。この時点で、少し不安があったそうです。
 この辺りにこんな区画があるとは、知りませんでした。その地区の道路は狭く、足場はぶよぶよとして歩きにくいものでした。
 時折身体が飛ばされそうな強風が吹きます。
 このあたりに活動中の火山があっただろうか。そう思いました。歩く度に暑くなり、蒸し風呂に浸かっているかのようです。太陽はいつの間にか姿を隠し、あたりは真っ暗になりました。道を聞こうにも、人っ子ひとり見あたりません。
 怖くて、配達どころではなくなってきました。地面や壁から響くような唸り声さえ聞こえます。姿の見えない、得体の知れないものからの視線を感じました。
 風は一段と強くなり、身を屈めていないと、足下をすくわれそうです。危険を感じ、引き返すことにしました。が、振り返ってみて、目の前がさらに真っ暗になりました。
 戻り道は九十度に近いような上り坂――高い壁になっていました。
 これまでか――。気を失いそうな恐怖に鳥肌が立ちました。
 その時です。
 これまで以上の強い風が吹き、身体が宙に浮きました。ものすごいスピードで飛ばされていきます。
 目を閉じなかったのは、まだ死を覚悟できていなかったからでしょうか。光が現れた瞬間、男と女、二人のニンゲンが見えました。
 二人はどうやら、夫婦のようでした。
 年齢差があり、女の目は、ぎらぎらと輝いていました。男は咳き込んでいました。

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短編小説第137回、テーマ「むせた」でした。
別に配送屋が人間とは言っていません。