第25回

短篇小説第25回、昔のものの移しです。
振り返ってみて、びっくり。
なんとしりとりが途切れていました。

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 コードを数回引っ張ると、豆電球だけが灯った。こんな弱い光でも、カーテンを開ければ外に漏れていく。除夜の鐘が鳴り始めた。
「実家から送ってきたの。おいしいのよ?」
 2年前の大晦日、この部屋には昭子がいた。
「ざるそば? 温かいのないの?」
 良一はこたつに入る。冷たい方がいいのよ、はっきりするから――。昭子は言った。
 テレビは、落ち目の歌声をクライマックスとする。黙々と食べ終わると、どちらが言い出すともなく、出かける準備を始めた。
「さっきのお蕎麦ね、良一のだけわさびをたくさん入れたの。わかった?」
「……全然気がつかなかった」
 やっぱり――。笑う昭子。参道にはたくさんの人が出てきていた。
「かけてたの。もし気づいたら、ここにいようって。気づかなかったら……」昭子の視線の先に、鎮守の森が見えてくる。
「気が、つかなかったら?」良一は訊いた。
「私のことを想ってくれる人のところに行こうって」
 昭子は一度立ち止まり、振り向かずに道をそれる。「じゃあね。……元気で」顔は見えなかったが、声は潤んでいた。ゆっくりと、木々の中へ入っていく昭子。やがて、暗やみに紛れた。
 良一は、もう一度コードを引っ張る。明るくなった小さな部屋。出来合いの蕎麦を生のまま口に含む。確かに冷たいと、味の差ははっきりとわかった。
 上着を羽織り、初詣でへと出かけてみる。2年前と変わらないにぎわいを抜けて境内に進むと、大きなたき火があった。前年のお守りを焼いてくれる有り難い炎。真夜中の寒さをしのぐ暖にもなる。
「お前の幸せは、まわりの幸せにもなるんだな……」
 取り囲む人々の顔を、炎は煌々と照らしていた。

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短篇小説第25回、テーマ「戸隠」でした。


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前回「ドラクエ」で、「え」からはじまる
テーマを選ぶべきだったのに、どうして「と」と思ってしまったのか。