第153回
短編小説第153回となります。
やめとこうかとも思いますが、私がお金を払っているブログサービスですので、私のチラシの裏ですから……。
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その社長は、首をつるのに適当な場所を探していた。
自分に我慢がならなかった。死ぬしかない。そう考えていた。
こんな自分では、いずれと言わず、すぐに社員を路頭に迷わせるだろう。現に会社の台所は、火の車だった。
当てもなくさまよい歩いていると、ふと森が途切れた。
社長が顔を上げると、目の前に熊が居た。
熊は誰かが置き忘れたか、逃げ置いていったであろう子供用リュックを漁り、お菓子の袋をうまそうになめていた。そして立ちすくむ社長に、気が付いた。
社長は戦慄した。声を出すこともできなかった。初めて目の当たりにする熊は、想像したことがなかっただけに、圧倒的で巨大だった。
熊は素早い動作で社長に駆け寄り、勢いよく爪を立ててきた。腰を抜かしたおかげで、社長は直撃を免れた。
社長は必死に逃げた。足は思うように動かなかったが、無我夢中で走り抜けた。ようやく身の安全が確信できる場所まで逃げ切ると、社長はおかしくてたまらなくなった。大声で笑った。
なんだ、まだ生きたいんじゃないか――。
死のうと思っていた人間が、生きるために死ぬ気になっていることが滑稽だった。
社長はそれから変わった。
死ぬ気になれば、何だってできる。
熊と出会ったことで、ふっ切れたのだった。
今でも挫けそうになった時、負けそうな時、社長は今でも残る胸元の傷に触れる。
もちろんあの時の熊につけられたものだ。あの時の必死さをもってすれば、何だってできるのだ。
社長はもう自分を迷わない。彼は、死をも恐れない。
今日もするどいかぎ爪を装着し、街行く人を殺しに行くのだった。
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短編小説第153回、テーマ「熊」でした。
Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)