第152回
短編小説第152回です。
今回は1回ものになります。
ボロくそでもねえ、やるんだよ!まったく……。
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
「くそう、なんで、こんな、簡単なのに……」
彼は震えながら頭を抱えた。
誰かを殴りたい。向こう岸に行きたい。皿にあるものを口に入れたい――。
普段なら簡単にできてしまうことなのに、なぜか身体がうまく動かない。
寝苦しいとき、こんな不快でもどかしい夢を誰もが一度は見たことがあるはずだ。
彼がまさに、その真っ只中にいた。
彼の場合は計算。しかも簡単な、算数レベルの四則演算ができない。そんな悪夢だった。
視界と脳を支配するのは、単純な二桁同士のかけ算。
いつもなら、紙の脇にささっと筆算を記し、手早く答えたことだろう。
酒気帯びテストでも、もっと難しいかもしれない。この程度であれば、むしろスピードを要求される。そんな子供だましの問題が、今の彼には大きな壁となって立ちはだかっていた。
「やばい、ヤバイヤバイ。時間がもうない……」
問題は認識している。目の前にあるのは、十一と十九の二つの数字だ。二桁のかけ算といっても、簡単な方なのに――。
できないのは、自分だけだろうか。立身出世のライバルとなるあいつどころか、みんなに置いていかれる不安に駆られた。
みんなって誰だ? ここはどこだ? これはきっと夢だ。夢だから、こんなに融通が効かないだ。
鉛筆を持つ手が震えた。いや、鉛筆ではなかった。シャープペンシル……型の消しゴムだった。
頭をかきむしりたいが、もはや手がどこにあるのか、その感覚もない。とにかく頭が真っ白になって、何をすべきなのかわからない。
六年生にもなって、こんな簡単な問題が解けないとは恥ずかしい。彼はさらなるプレッシャに追いやられていった。
「夢なんだ、これはきっと夢なんだ……」
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
短編小説第152回、テーマ「当惑」でした。
ちょうどいいじゃないか。