第150回

短編小説第150回になります。
ああ、のらりくらりと150回目ですかー……。

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「組織の科学技術に不可能はありません」
 電話の向こうで、エージェントKは、そう答えた。
 確かにそうかもしれない。しかし、死体を一つ作るよりも難しいだろう。さくらは身震いした。
 今回の任務は、潜入している企業の専務、近藤(こんどう)を脳死状態にすることだ。
 脳死に持ち込めば、組織が脳移植の手術を行う。組織の人間が、そっくり近藤になる。
 さくらは、メインではなくサポートの工作を行う予定だ。
「失敗は、ないんですか?」訊ねると、Kは、くすっと笑った。
「加減を間違って殺してしまったとしても、脳移植が失敗したとしても、近藤は死にます。それだけでも利益があります」
 電話はそこで切れた。計画は実行され、組織は、近藤を脳死させることに成功した。さくらは、近藤の死体が誰の目にも触れない時間を八時間作ることができた。
 そして一ヶ月後、近藤が会社に復帰した。
「専務、事故に遭ってから大人しくなりましたねー」
「あの豪快さは、どこにいったんですかー」
 結果は、さくらが呆然とするものだった。
 敏腕な近藤の帰りを社員は温かく迎えた。しかし無理に明るく振る舞うぎこちなさもあった。
 近藤は前とは違う。首から上が、消失していた。
 もちろん、死体――。
 企業は、組織からののっとりを防ぐために、近藤を生きていることにした。無理矢理脳を移植されないよう、頭ごと切り落とした。
 社員はずっと、近藤が生きているように振る舞う。
「我々の計画は、バレていた……」
 すべてが遅かった。幽霊となったさくらは、自分の亡骸を見つめながら、そう思った。

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短編小説、第150回、テーマ「屍」でした。


怖い話好きな方へのおはなし……ですかね。

Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)