第143回

短編小説第143回です。
今回は一回ものですので、どうか気楽にお読みになってください。

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「じゃあ、りょーくん、今日も頼むわー」
 自転車にまたがった瞬間、後ろの荷台に自分以外の体重を感じた。わざと尻に力を込めて、前に進むのを邪魔している。
 学年ビリの前田だ――。首にまとわりつく息が、たばこ臭い。後ろは振り返らなかったが、良介(りょうすけ)は、そう思った。
 とてもじゃないが、面と向かって文句を言う勇気はない。
 前田の成績が学年ビリなのは、わけがあった。超がつく程の不良である前田は、授業なんか受けない。テストすら、ボイコットしていたからだ。
 なのに、毎日放課後くらいには登校してきては、良介に絡む。
 前田がいなければ、自分が学年ビリになってしまう。その存在は痛し痒しだと、良介は自分を納得させていた。
 せめてもの抵抗で、自転車をこぎ始める。前田を振り落とそうと考えた。
「何シカトしてんだよ」前田は凄みをきかせてきた。「ビビってねーで、こっち向け!」
 僕よりもバカのくせに――。
「おい、認めろよ、後ろ向け」
 スピードに乗った自転車は、校門を抜け交差点に近づいていた。
 良介は、今ごろになって怖くなった。
 この前田は、自分よりバカの学年ビリだから、この状況が危険だということもわからないかもしれない――。
 気が付けば、病院のベッドにいた。
 母親は泣いて喜び、良介がケガのわりに元気だとわかると、激しく怒った。
「こんな大ケガして学校休んで、ますますバカになったら、どうするの!」
 仰るとおりだ、と良介は思った。しかし、テストを受けない前田がいる限り、学年ビリになることはない。
 看護婦が病室に入ってきた。「前田良介さーん、気分はどうですかー」

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て、ことで、ちょっと気楽に……て、感じの内容ではありませんでした。
短編小説第143回、テーマ「後ろ」でした。


100回を超えたので、以前使ったテーマでも書いていいよ、というルールにしているのですが、第53回で「後ろ」というテーマの短編小説を買いてますね。


-第53回

このときは、未練がましいものにしたのか。