第142回、その2
短編小説、三回ものの2回目となります。
すみません、また長いことあいてしまいました。
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透子(とうこ)は困惑した。
水筒を持った男の子は、この家に迷い込んだのではなかった。物乞いに来ていた。
素直に施すべきか、追い返すべきか、相手が幼い子供だけに判断がつかない。
悪知恵を働かせたこの子の親が、子供を逆手にとって使わした可能性もある。今の日本にも水は豊富にあったから、大切な農作物の代わりにはならなかった。
「ボク、お名前は?」透子は尋ねた。
男の子はつたなく答えた。この辺りでは多い名字で、透子と同じだった。結局どこの家の子供かわからなかった。痩せているが、今の子供は誰もこんな感じだ。
深く詮索する気も起きなかったので、透子は結局男の子を家に上げて夕食を振る舞った。
家で食べさせれば、知らない親に食料を渡されることもないだろう。
男の子は次の日も水筒を抱えてやってきた。
透子は前日と同じように、夕食をその男の子と共にした。その次の日も。次の日も……。記録を更新していくように続いた二人の食事は、いつしか毎日の習慣となった。
食べさせていることに何の不満もなかったが、男の子は律儀に水筒に水を入れて持ってきた。透子がその中を口にすることはなかった。水筒の中を確認することもなかった。
透子は、この子が愛おしくなった。
自分には身寄りがいない。
両親も亡くなり、連れとは別れた。子供には、恵まれなかった。
男の子との食事に会話はなかったが、孤独を忘れるには十分な温かさがあった。
自分の作った料理を一心に口にしている男の子に、透子はそっと手を伸ばした。
「ねえ、うちの子にならない?」そう言おうとした。
しかし、できなかった。
代わりに、違う言葉が漏れていた。
「産んであげられなくて、ごめんね」
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短編小説142回、その2でした。
次が最終回です。
なるべく早くアップします。