第142回、その1

短編小説第142回。
今回は、久しぶり?に3回ものとなります。


書く前までは、のほほんとしていたのですが、なぜだか気合いが入ってしまって、「よし、3回ものでいこう」となってしまった物語です。

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 心が離れた原因は、子供を流してしまったことだと、透子(とうこ)自身もよくわかっていた。
 これ以上二人で歩けない。離婚してから、もう三年ほどが経つ。田舎に戻ると、両親もこの世から去った。
 暮らし向きは悪くなかった。むしろ結婚していた頃よりも良くなった。
 経済の破綻した日本は、食料を輸入することができなくなり、食糧難の時代になっていた。もともと高品質の農作物を作っていた生産者は、単価の高い海外に食料を輸出する。
 幸運なことに、亡くなった両親は、立派な畑を残してくれていた。女の細腕一本での農作業は大変だったが、それでも収入はいい。一人だから、気楽にやっていけた。
 ――夏の夕暮れだった。
 透子が畑仕事から戻ると、玄関の軒先に小さな水筒があった。
 蓋は開いている。中を覗くと、半分だけ水が入っていた。古くなっているのか、少しだけ濁って見える。
 誰の水筒だろう。親戚が留守中に訪ねてきたのだろうか。
 透子は考えたが、水筒を持ち込んで蓋を開けておく理由がなかった。
 気味が悪いので、そのまま家に入った。
 朝になると、水筒は消えていた。そしてまた夕方に現れた。毎日水筒が玄関先に現れるようになった。透子は見て見ないふりを続けた。
 ある日水筒は、水筒を抱えた少年に変化した。
 まだ小学校にも上がってないような、小さい男の子だった。
 友達とかくれんぼをしてこの家に迷い込み、そのまま帰れなくなったのだろうか。
 透子は男の子に話しかけようと腰を屈めた。
「お水をあげます。代わりに食べ物をください」男の子が、先に口を開いた。
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短編小説第142回、3回もののその一回目でした。
あと二回続きます。

Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)