141回

短編小説第141回です。
そろそろ梅雨?
というか、東京/神奈川地方は、ずっと雨の多い日が続いていますが。

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 人一人として見あたらない。例年以上に静かだ――。
 スドウがこの○○村に来るのは久しぶりのことだった。
 今年はサザエに高値が付いている。しばらく近場の海を荒らしていたが、そろそろ“在庫”がつきそうだ。この村は、漁師が少ない。まだまだ豊富な量のサザエが期待できた。
 スドウは、密漁に来ていた。
 組のシノギを稼ぐために、なかなかいい金が入るのが、密漁品の横流しだった。
 上がりの残りは、自分の懐に入れている。得意の水泳を活かして、組の上層部に名前を覚えられるまでになった。
「どういうことだ? 一家揃ってお留守って事はねぇよな?」
 しかしその日、○○村の海にはサザエどころか、魚一匹いなかった。懸命に夜の海を泳ぎ回ったが、生き物らしい姿を見なかった。
 次の日も、その次の日も……。
「しかし、魚はおろか、村人にも会わないっていうのは、どういうゴホッ……」
 とある事務所でつけっぱなしのテレビがニュースを流していた。
原子力発電所の爆破により村全体が被爆した○○村ですが、当MMMニュースが特殊防護スーツを着用し、取材に成功しました。
 ご覧ください。この死の世界。生身の人間では、三日ももたないそうです』
 もともとBGM代わりなのだろうか。事務所の人間は、誰もニュースを観ていなかった。
「最近スドウ見ねぇな、どこ行ったんだ?」
「ええ、自宅にもずっと戻ってないみたいなんですよ」
「まあ、いいか。スドウは終日外出ってことにしておけ」
 テレビは、彼らが話している間もずっとニュースを流し続けていた。
『○○の海に魚が戻って来るには、半世紀以上の時間がかかるそうです』

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短編小説第141回、テーマ「留守」でした。
さわりの文章は、まったく関係のないひっかけでした。
あいすみません。

しかし、もんじゅのニュースとか、タイムリーだな……。
Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)