第135回

短編小説第135回です。
だらだら続けているこのブログですが、筆者である私の小説修行の場でもあります。
ルールは、自分勝手にテーマを決めるのではなく、「しりとり」で単語を出し、それをテーマにしています。
文章規定は、400字詰め原稿用紙2枚。最大800文字です。

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 ラボには、誰かがいた気配があった。しかし、ミカルにはそれが誰のものか、わからなかった。本人の代わりに古ぼけたノートが置き忘れてあった。
○月×日――。
 ノートは、観察記録だった。何らかの生物を閉鎖された空間で飼っていた様子がつぶさに記してある。ミカルは、ページをめくっていった。
『環境を安定させるのは、資金面からも少し困難だ。温暖な時間帯と寒冷な時間帯を短い周期で交互に入れ替える。個体数は一時的に減ったが、結果としては、その方が安定した繁殖を見せた』
□月■日――。
『多様性がない。つまらなくなった。狭い空間だが、差別化したゾーンに数を振り分けた。なんと、様々な種が独自の進化をはじめたばかりか、環境に適応した生活をはじめた。文化の誕生だ』
□月△日――。
ゾーニングがいけなかったのだろうか。一部の種が同類を攻撃しはじめた。個体数に目立つ異常はない。以前発見した文化や各々の利益を争っている様子がある。戦闘が長引けば、全体的な環境そのものに影響を及ぼすだろう。はて、どうすべきか』
●月%日――。
『不注意だった。環境設定の暴走に気づいていなかった。大爆発を起き、空間の中は、無数の小さな石ころだけが残った。生物の痕跡は、一つのカケラにしか残っていない。
 私は、このカケラに賭けてみることにする。カケラに住む生物たちが知能を持ち、言葉を操り、この真空の外に出ることができる頃、再び目を覚ますことにしよう』
 観察記録はそこで終わっていた。ミカルはノートを閉じた。記録者は、いずこかにおられるという親方様のことだろう。カケラと名付けられた石にも、心当たりがあった。

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短編小説第135回、テーマ「理科」でした。


100回を超えたときに、しりとりもいずれ続かなくなるだろうから、以前やったテーマが回ってきても、もう一回やる、ということを宣言しました。


実は第2回目も、テーマ「理科」でした。
http://d.hatena.ne.jp/sorasemi/20060501/1146489968


成長してるかな?


Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)