第130回

あけましておめでとうございます。
本年も短編小説は続けて参ります。
今回が第130回目となります。
ペースが落ちているように見えますが、1回に付き、2話、もしくは3話とあったりするので、気のせいです。きっと気のせいです。

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「変わらないねぇ、ここは」
「野生化しちゃってるけどなぁ」
「いや、前からそうだっただろ、この田舎は」
 人里離れた山村に、笑い声が響いた。
 いや、今ではもう山村とも言えない。過疎化が極度に進み、村は廃村となっていた。
 すっかり老け込んだ彼らは、小学校の最後の卒業生。秋を前に同窓会を開き、タイムカプセルを開けることになった。
「このドングリ誰のぉ?」
「それ、来栖(くるす)さんじゃないかなぁ」
「来栖さん! 懐かしい!」
 タイムカプセルには、たくさんのドングリが入っていた。物がなかった時代だ。未来に送っていける物など、記憶しかなかった。しかし卒業生は、この記憶がことの他うれしかった。
「来栖さん、今ごろ、どうしてるかなぁ」
「結婚したって聞くね」
「あー、きれいだったもんねぇ」
「目なんか、ぱっちりしててね!」
 彼らが一番世話になった来栖さんとの思い出は、ほとんどが、野山を駆け回っていたものだった。
 勉強してたっけ?と、みんなが肩をすくめて笑いあった。
「私、来栖さんに木登りを教わったのよ」
「へぇ。俺はクルミの割り方だったかな」
「来栖さん、会いたかったなぁ」
 卒業してから、ずいぶんと時間が経つ。悪い想像がよぎった。仕方のないことだ。自分たちだって、寿命で言えば、残りの期間の方が短い。
「あんまり固まると、人間に見つかるよ」
「え……? 来栖さん!」
 重く舞い降りた沈黙だった。しかし懐かしい声が振り払った。
 今でも変わらない縞々の尻尾。そこには来栖さんの姿があった。
 森の中に、小さな輪ができた。

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短編小説第130回、テーマ「リス」でした。

Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)