第126回

短編小説第126回となります。

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 教会に懺悔に来たはずのソフィは、今の自分が置かれている状況がよくわからなかった。
 教会に来たのになぜ、聖職者とジンギスカン――? 悩める子羊が、祈りもせずに。
「どう、おいしいでしょ?」
「本場北海道の仕込みダレなの」
「いいラム肉が手に入ったからね」
 肉は確かにおいしい。だが不安になる。自分の状況に悩む。未来に迷うような気がした。教会でジンギスカンなんかやってても、むくむくノロマになっていくだけのように思えた。
「会社、辞めるの?」
「そう。部長さんと不倫ねぇ」
「お肉を食べて、元気出して」
 この教会の牧師ではあるらしい女は、一応ソフィの話を聞いているようだ。しかし、それよりもジンギスカンに夢中だ。肉に対する情熱を感じる。いや、愛情だろうか。
 ソフィは少し眠たくなった。箸を落としそうになった。この食事でまた太ってしまうだろう。ぼんやり、そんなことを考えた。
「嫌なことは、食べて忘れるのが一番よ。懺悔なんてマゾのすること」
 この女は何か嘘をついている。目が怪しい。まるで豚を見るような目つきだ。ソフィはやっとのことで瞼を上げた。眠らないようにがんばった。
 女が無理矢理ソフィの口にラム肉を運んでくる。ほら、おいしいでしょ。簡単に喉を通っていった。眠くて頭がくらくらした。
 ソフィは、暖かい草原をゆっくり歩きたくなった。
 寒くても、丸まっていく自分の毛が体を温めてくれる。牧羊犬が怖いが、みんなで固まれば大丈夫だろう。もう、どうてもよくなってきた。
「いいラム肉が手に入るの」
 血の涎を滴らせている女は、手鏡を取り出して、ソフィに見せた。
 毛のむくむくした動物が映っていた。

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短編小説第126回、テーマ「ラム」でした。
100回を超えたときに宣言したとおり、そろそろテーマが少なくなってくるので、以前使ってしまったテーマでも、よし、とします。
少しは成長できていればいいのですが。


以前の「ラム」は、こちらになります。

短編小説第32回「ラム」


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