短編小説、第125回となります。


え?
やめるんじゃ、なかったのかって?
前回は、やらなくてもいい釣りでした。
テーマが「もったいない」でしたので……。

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 アイポートは、日本最大の工業港でありながら、国内屈指の水産量を誇る漁港でもあるという、奇蹟の港だ。今日も漁師モチヲさんが、地元の名産品「イライラ」を水揚げした。東京からのテレビ局が取材に来ていることもあり、若干緊張気味だ。
「私がマイク向けたんだから、喋りなさいよ」
「あ、あんのー。魚は新鮮な……」
「どんな気持ち、どんな気持ち?」
 今年も大漁だ――。モチヲさんの顔も、どこか誇らしげに映る。
 イライラと言えば高級魚。テレビショッピングのみで販売されていたイメージが強いが、最近は、インターネットによる通販も始めたそうだ。これがまた、若い層に受けているという。
「わたしはー、パソコンっつーのは」
「だめだめ、君はキンユーが全然わかってない」
カスラックがまたチョーシこいてるけど、質問ある?」
 イライラは、宣伝しなくても、ほとんどがクチコミで売れていく。その媒介元となるのが、あのハテーナだ。放っておいても、ユーザが勝手にイライラをテーマにしたクチコミを披露。そこにまたユーザの視線が集まる。まさに、最強のエコシステムといえよう。
「ハテーブトルネドっつーらしーんですわ」
 モチヲさんの言葉には、何もしてくれない政府への不信感が実に良く表れていた。説明責任がまったくされてないから、こんな事態を招いたのだ。ユーシキシャの懸念がこんな所にも現れた。このあとは、無駄遣いに対抗して、今日もおしゃべりなおばさんたちを集めることだろう。
 時代は変われども、何か大切なことを忘れていないだろうか。
 メディアやネット上で流通されるイライラを思い、筆者は洋画のタイトル並みに、無意味かつ思わせぶりな言葉を羅列するのみだ。

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Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)

短編小説第125回、テーマ「いらいら」でした。