第116回
短編小説第116回です。
今回は、1回ものです。
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樹齢一千年のこのご神木も、ついに切り倒されることになった。
神木は樹齢に比例して、あまりにも若々しい枝葉と健康な幹を誇っていた。
大学からの調査団がやって来て、その秘密を探ったが、他の樹木と大きく変わるような特徴を挙げるには至らなかった。
神主は伐採加工したご神木を、全国の支社にて祀ることにした。
大学教授は、渋い顔をした。ご神木の秘密に実は心当たりがあった。
顕微鏡でしか確認できないような小さな文字で、ご神木には落書きがしてあった。
「私は今年で二十九歳の独身女です。今日は私の悩みを聞いてください。
結婚できないのは、もちろん私の責任もあります。
しかし、どうにもこの神木が原因にも思えるのです。
私は、子供の頃からこの木と一緒に遊んできました。
この木は、楠です。ダニと共生することにより、他の虫からその身を守るという他の木には見られない特徴を持っています。
問題はここです。私には、前から言い寄ってくるストーカ男がいます。
なのに、他の男の人からは、ガン無視の状態なのです。
ストーカ男については、警察にも相談していますが、埒があかない状態です。
この神木の力が、なんか私にも乗り移ったような気がします。木だけに。
だってほら、この木、十年そこらの幼木をそのまま拡大したように見えません?
そこが神秘的とも言えるんですが……」
落書きはそこで終わっていた。
教授はご神木の不思議な特徴を、口にすることはできなかった。
今ではこの神木の断片が全国で祀り上げられている。
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短編小説第116回、テーマ「楠」でした。