第114回、その三
短編小説第114回、その三。
これで、最終回となります。
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
逆売春の現場に現れた惑星大統領の娘は、狼狽するアスに満足気な笑みを向けた。
オンナしかいない星、ルナにおいて、禁じられたダンジョの接触。
犯罪者をあぶり出すための罠だったのか。しかしまさか、惑星大統領の娘自らが捜査に当たっていたとは――。
アスは後ずさりし、ドアに足をぶつけた。慌てて後ろを振り返る。
娘の他に、誰も入ってこなかった。
「私が誰かわかるのなら、あなたが安全だということもわかるでしょう?」
側近も承知の上か。娘は落ち着いていた。慣れた手つきでアスの服を脱がせ、アスは娘を抱いた。
オンナしかいないルナにおいて、禁忌とされる性行為。楽しむのは、一回や二回ではないのだろう。 アスは娘に身を任せ、背徳と恐怖の内に果てた。朝には報酬が入り、アスは日常に戻ってからも緊張した日々を過ごした。そして、徐々に忘れていった。
一年ほど経ったころ、ルナの惑星大統領の娘が子供を産んだ、とニュースが入った。
高水準の人工授精技術の象徴として、ルナにまた注目が集まった。
「なにが人工授精だ。……いや、もしかして?」
アスはカーテンを開けて、暗い空に浮かぶルナを見上げた。
時期が近いとはいえ、一回で妊娠したとは……自分が父親の可能性とは考えにくい。
あるいは、それがオトコの自分勝手なところなのだろうか。
忘れよう――。
目をつむると、瞼にルナが焼き付いていた。
朝が来れば見えなくなる星。しかし手が届きそうに大きい。
きっと、自分はルナの地に二度と足を踏み入れることができなくなった――。
アスはカーテンを閉めて、ベッドに潜り込んだ。アスの夜に、光は差さなくなった。
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
短編小説第114回、テーマ「ルーナ」でした。
写真の通り、月のルーナ、ルナです。
Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)