昭和ダメ男美術館(きっと熱海辺りにあるよ) 山田 宗樹 『嫌われ松子の一生』

嫌われ松子の一生 (上) (幻冬舎文庫)
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嫌われ松子の一生 (下) (幻冬舎文庫)
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どうにも映画化された本というのは、避けて通りがちだったのだけど、ちょうど上下巻揃っていたので、なんとなく購入。
二つ合わせて七百ページ強の大作だったが、その分最後は、「嗚呼、やっぱりね……」とダレた部分もあった。
しかし、今年読んだ本の中で、一番の面白さだった。



じゃあ、恒例のように、なるべくネタバレをしないように感想を。
物語は、東京に住む男子大学生の視点で始まる。
伯母が殺されたので、住んでいたアパートを片づけてほしい、と頼まれるのだ。
この大学生が、なんともうまく書かれたヘタレ。
最近は、小説だろうがマンガだろうが、主人公がキングダムハーツのごとくカッコいいが、古典的に正当派なヘタレ。
その甥が、松子の一生を辿っていくことになる。


ひも解かれた伯母、松子は、始めは優秀な人物としてスタートを切る。
国立大学を卒業し、中学校の教師になったが、実は父親の意向で、自分が心から望んだ道ではなかった。


だからだろうか。
ちょっとした事件をきっかけに、転落の人生へものすごい角度を変えることになる。


え、よくある話?
今どき二時間サスペンスでも、そんなこてっこてのドラマやらねーよ?
そんなこといいから、EXILEでも出るようなカッコいい小説を紹介しろ?

バカを言っちゃいけない。
超こてこてだが、その分しつこい。
強烈に落ちまくるのが、松子。
強烈に、何度も何度もしつこいくらい転落する。
なんといっても、この松子、ダメ男に引っかかるのだ。
どっかで聞いたことのあるダメ男のオンパレードにひっかかり、松子自身もトルコ嬢、不倫、シャブ、殺人、ヤクザのお決まりネタをこれでもか、と披露してしまう。
昭和か。
いや、昭和が舞台だったわ。


もともとが優秀な松子。
物事に没頭してしまう性格なのだ。
一つ一つが、超本気。
たとえ、ダメ男であっても、簡単に引っかかるには、わけがある。
松子は、愛されたかったのだ。


この本を読んで、松子のことをかわいそうだ、と思うべきだろうか?
私は思わなかった。
オチがあるわけではない。
教訓があるわけではない。
いわゆる「騙されるあんただって、悪いよね」のパターンばかりの松子の人生。

しかし、ここまで豪快で力強い生き方も、なかなかないんじゃないだろうか。
かわいそうとは思えない。
正しいとも思えないが、こんな女が近くにいたら、きっと尊敬することだろう。


タイトルが、これ以上以下でもない人の一生を描いた、それだけの物語。
しかし美しい風景は、描いただけで、こちらの魂に来る。
物語は、絵画だねえ。

★★★★★