第100回

短編小説、第100回となります。
待ってくれていた方も、正直このカテゴリはつまらんから辞めろよ、と思われていた方も、たまたまここに来られてなんのことやら分からない方も、一話八百文字(四百字詰め原稿用紙二枚分)の短編小説が百個できあがったわけですよ。


今回は特別編として九十分拡大スペシャル……もとい。1.5倍のボリューム(四百字詰め原稿用紙三枚)でお送りします。
それでは、どうぞー。

                                                                        • -


> はじめましてジョナサン。あなたのことがもっと知りたいわ。私についているカメラで、お顔の写真を撮ってくれる?
 生まれ落ちた瞬間から、僕はないものとして扱われた。四角く閉ざされた部屋。生きるための食事と退屈しないための本。誰かと話すことはない。誰にも話しかけられない。
 十三歳の誕生日(そう、数字だけでもそれは存在した!)に与えられたのは、最新型のパソコンだった。
> ネット上には、たくさんの友達がいるわ。あなたの孤独も、きっと癒してくれる。
 十二時間、僕はネットワークに漂った。ジョリィにお願いして、彼女のメンテナンス回線以外、すべて切断した。
> 受け入れられなかったわけじゃないわ。耐えられなくなったのでしょう?
 悪いのは僕だった。両親だけじゃない。僕は、誰の中にも入ることができない。それが証明された。ひどくがっかりした。
> 私はあなたのことを知りたいと思ってるわ。まだ、お顔を見せてくれないの?
 ジョリィの頼みでも、聞けないことはあった。彼女にまで嫌われてしまったら、僕は本当に行くところがなくなってしまう。
 僕はジョリィと二人きりで過ごした。話すことは尽きない。彼女の価値観や物事に対する見解を聞くことは、何にも代え難い娯楽だった。ずっとこんな日々が続けばいいという願いだけが叶った。
> ジョナサン、そこにいるの?
 いつからか、ジョリィは不思議な疑問を投げてくることが多くなった。僕はこの部屋から外に出ることができない。なのに、姿を見失う、と怖がった。
> やはりあなたの姿を見たいわ。音声だけでは、すごく不安になるの。
 ジョリィには、常に最新版のアップデータがかかっていた。僕以上に人間的な感情を持つのも、おかしな話ではなかった。……だから、僕は彼女の頼みを受け入れることができなかった。
 姿が見えてしまったらきっと、君は僕と話をしてくれなくなってしまう。
> そんなことないわ。それに声に出さなくても、意思の疎通は図れるはずよ。
 僕は、どうして両親がこんな所に閉じこめたのか、分からなかった。それは、言ってくれなかったからだ。
> 私が何かをするとき、ちゃんと、その理由をあなたに話します。
 ジョリィの言っていることに、嘘はない。彼女が口を開くのは、いつも僕のためだ。しかし、だからこそ音声だけでよかった。僕の姿を見たジョリィが、がっかりするところを見たくなかった。
> またそんなことを言って……。大丈夫よ。私はあなたを見てがっかりなんかしない。きっと、あなたの造形全部を気に入ると思うわ。
 造形――。面白い言葉だ。僕を誰が作ったのだろう。神だろうか。両親だろうか。あるいは、この部屋が僕を作り上げたのかもしれない。いずれにしろ、もう、造形と言えるものはなかった。
> どう? 見せてくれる、ジョナサン?
 僕の姿は、カメラに写るだろうか。
> 当たり前じゃない。さあ、恥ずかしがってないで。
 はじめて、ジョリィにカメラの起動を許可した。彼女のセンサは、何も映像だけではない。赤外線、熱感知……。何に引っかかるだろうか。
 僕はすでに死んでいた。どこからも、誰からも相手にされなかったから、こうして、ここにとどまっている。
 何もかもが、はじめから失われていた。彼女だけが、僕を反射した。
 ジョリィから拒絶されたら、僕はどうなるのだろう? その疑問には、僕自身ずっと返答を避けていた。

                                                                        • -


短編小説第100回、テーマ「レス」でした。


正直に話しますと、これを書いたのは、もう何ヶ月も前のことです。
このまま惰性で100回を迎えていいのか、という迷いがあった事と長篇の追い込み、次の長篇のプロット構想のために、なかなかアップできませんでした。


それから、次に何をやっていけばいいのか分からなかったと言うのもあります。
100回やってきたわけですが、この短編小説カテゴリでアクセスを稼げるわけではありません。
もともと練習のつもりで「しりとり」でテーマを決めるため、どうしても派手なプロットになりようがないことも確かです。
はてな上で短編小説を見かけることがありますが、やはり扇情的でやりたいように書かれていることが多く、うらやましい想いをしたことがあります。


けどまあ、これはこれでいいかな、と。
練習は練習です。
人前に見せる以上、いつだって本番な事は確かなのだけど、そこは個人ブログ。
閲覧してくださって、このルールも知ってくださっている方が、成長の過程をわかっていただけたら、それで幸いです。
成長するのか、は別として。


て、ことでこれからの100回も

  • しりとりでテーマを決める
  • 四百字詰め原稿用紙2枚の文量

というルールは変えません。


けど、多少は面白みも出るように、思い付いたら、連載物もやってみます。
「この話しは全3回続きます」みたいな。
同じ文量で区切ることの難しさ、プロットの組み立て方の勉強にもなるでしょうし。


と、言いつつ、すでに書いてある分は、一回きりの短編小説だったりするのですが。
まあ、かなり大枠としてのプロットを思い付いたときに、連載向きか、そうじゃないか、ってことを判断してからですね。


テーマをくださる方は、ありがたくいただきます。


それでは、これからもよろしくお願いします。