第98回

短編小説第98回です。
やべえ、昔のものを移しきってないのに、あと二回で100回になる……。

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 目を覚ますと、見知らぬベッドの上だった。隣には裸の女。モモカだ。頭が痛い。酔っぱらって、そういうことか。二千年になって五十年も経つのに、男って奴は、進化していない。夜の記憶がないなら、なおさらだ。
「急いだ方がいいな」七時半だった。朝食をコンビニで済ませれば、会社にも間に合う。軽くメモを残し、昨日と同じ服でアパートのドアを開けた。
「あ、現れたぞ!」
「いかがでしたか、順調ですか?」
 大勢の人間が一様にこちらに押し寄せた。あびせられる質問と体重のプレッシャ。訳がわからない。あわてて部屋に戻った。
「んー、どうしたのー?」
 モモカがもそもそと起き始めた。まだ酔いの覚めやらない火照った顔がかわいらしい。……なんて、考えている場合じゃない。
「外がすごいことになってるんだ」ドアスコープをのぞき込む。押し迫る群衆は、マイクやらカメラやらを備えていた。マスコミだ。
「モモカ、芸能人とかいいとこのお嬢さんだったりしないよな?」
「お金持ちではないですね。ウチ、国からの補助で暮らしてるんで」
「じゃあなんでマスコミが……」
「補助を受けるくらい、大事な一家の一人娘だからじゃないですか」
「……なんだって?」
 ドアの向こうは、スキャンダルの火種争いだ。なのに、背筋が凍り付いた。
 頭が痛い。昨日からの記憶がない。なぜ、初めて会ったこの女を知っているのだろう。
「あなたニンゲンの生き残りですよね? 私もなんです」モモカはベッドから起き上がった。鳥肌の立つ乳房。……たしかに。
「私たちは、強制的に夫婦になったんですよ」
 二十一世紀も、半分が過ぎた。ニンゲンの時代は、教科書に載るまでになった。モモカの瞼には、涙が浮かんでいた。


Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)

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短編小説第98回、テーマ「トキ」でした。
写真はカモメですけどね。