第97回

短編小説、第97回になります。
火傷を包帯で覆っているため、キーボードが打ちにくい。

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 度重なる求婚の申し出を断っている内に、かぐや姫は、三十路にリーチをかけてしまった。業を煮やした翁は、恋のキューピットを雇う。弓矢でどきゅん、のあの天使。かぐやを無理矢理誰かに惚れさせてほしいという魂胆だ。もう、何でもありの世界で、天使は今日もかぐやを説得していた。
「あんたもさ、そろそろあきらめて嫁に行ってほしいわけよ」
「いやー、でもさぁ、安い女にはなりたくないわけ」
「はやく決めた方がいいよ、女は賞味期限ってものがあるから」
「いざとなったら、偽装すっから」
 かぐやは股をかきはじめた。こうなるともう話を聞かない。天使は最近の見合い写真の中から、とりわけいい男をピックアップした。「こいつなんか、よかったじゃん?」
口説き文句がピンと来なかったの」
「贅沢言うなよ、どんなこと言われたの?」
「武蔵小杉のタワーマンション買ってあげるとか」
「てめ、マジで贅沢だな!」
「あたし、コスギなんて中途半端なところ住みたくないわけ」
溝の口じゃ、そう変わんねえだろ! ……まったくよ、私はとんでもないブオトコが来たときに、矢を射ってもいいんだよ? なるべくあんたの要望を聞こうと思ってるの」
「あたしの好みぃ? なんつーか、こう地球のスケールを超えてますって感じの……」
「死ねよ。お前の馬鹿さ加減が、地球外だよ」
「そんなこと言わずにさあ。あ、あんた、あれ狙ってよ」
「届くかっつーの。誰に当たるんだよ、なんか、恐ろしいもん来たらどうするんだよ、つか、あれ、降ってきたらどーすんだよ!」
 かぐやの指は、月をさしていた。その後のエピソードが、なぜああも、美しいものになったのか、天使は納得がいかない。

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短編小説第97回、テーマ「的」でした。
「てき」じゃないよ、「まと」だよ。


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