第27回

短編小説第27回、昔のものの移しです。
100回に到達するまでに、昔のものは、なるべく移しておかなきゃなあ。

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 沈む四角い塊。キャッチコピーは、『田舎娘の白い肌』。石坂に言わせれば、この娘達は一日として同じ色をしていない。今年の天候では、良い色になることは少ない。水面に自分の顔が映った。

 先々代が作り上げたこの製法を受け継いでから、二十年ほど経とうとしている。さらにうまい豆腐を作るのが責任。新パッケージの打ち合わせから帰ってくるなり、妻は今日も疎むような視線をくれた。「どう?」
「悪くない……」振り向かずに答える。続く言葉は分かっている。「どうせ細かい味の違いなんて、誰にも分かりゃしないのよ? もっとたくさん生産できるようにしてよ」
 工場に併設している店に、若い二人組の女性が見えた。言葉に詰まっていると、妻は愛想のいい返事で駆けていく。
 決して貧しい生活ではなかった。しかしそれは、町が観光地化されて古い豆腐屋がもてはやされてから。妻の言うように効率的な作り方があるかも知れない。型枠にはめなければならないのは、自分の方か――? 揺れる顔を手でかき混ぜた。
「お父さん」息子の声が背中に届く。「話があるんだ」焦りを隠して振り向いた。高校受験を考える歳になっても、ぶかぶかの制服。似なくていいところは、似なくても……。
「お母さんが勧める私立にするよ」

「そうか」それがいい――続けることができなかった。
「とりあえず今はお母さんの言うこと聞いておいて、目くらまししておく。3年経ったら、お父さんの弟子にしてよ」
 にんまりと口元をつり上げる息子。石坂は目を見開いた。「別にいいんだぞ? たくさんの意見を比較をして、一番良いものを取りなさい」息子は首を振る。「一番良いものじゃない、悪い意見も取るんだ」
 石坂は顔を上げた。「全部入ってりゃ、誰も文句言わないよ」

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短編小説第27回、テーマ「値ごろ」でした。
この頃のは、格好つけてるだけで、中身が薄いなあ……。


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