第71回

短篇小説、第71回です。
こんなの、テーマになるかな、というのをテーマにしてみました。
あと、雰囲気合っていたので、
前の写真を使い回しです。

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 罪深い夜さ、相棒。悪酔いを予想、あらかじめの自己嫌悪。チロルチョコのような小さな時間。大切に待っていたなんて、あの頃じゃあ考えられなかった。
「待たせたな」お前は口元をゆがめて席に着く。シャープネスをなくしたその表情。酒場の客が、俺たちと似た顔に見えてくる。
 逆か? 俺たちが変わっちまったのか?
「変わらないな」お前は静かに喋り始めた。
「そんなことはない。俺も変わったさ」
「ああ、少し老けた。ちょっとだけ、だが」
 煙の中に浮かぶ苦笑。時計の針はちょっとばかり進みすぎた。これだけの余裕が生まれるには、大きな時間が必要だった。
 どれほどのものを失った? 俺は思い出に浸る。おかしなことだ。あの頃の方が、何もなかったはずなのに。
「どうだ、そっちは?」お前は尋ねた。
「大変だよ、毎日毎日」こんな返事自体、俺らしくない。「睡眠不足かもしれない」
「これくらいか?」お前はわざとケチに徳利を傾けた。変わったこと、楽しんでいるのか? だとしたら笑えないぜ。俺は答える。
「気持ち多めに」
「こうか」
「いや、もうちょっと……」
 そうか――。ニヤつくお前に、俺はやっと気づく。
 何も変わっちゃいない。これが俺たちのリズム、ちょっとしたブルース。唇噛みしめたヒップホップ! 非効率をモットーに生きていくのさ。お前の目が大きく見開く。
 テーブルについたのは、警官だった。
「君たち、ちょっといいかな?」
「ああ、ええ。はい」
「その制服、N中学だね。こんなお店に来るには、ちょっと早くないかい?」
 ヘイ、相棒。こんなやつ、ぶっとばしてやろうぜ? 俺は視線を前に移す。
 相棒! ちょっと! 逃げてるなんて!

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短篇小説第71回、テーマ「ちょっと」でした。