第67回

短編小説第67回です。

                                                        • -


 契約ははどのようになさいます?
 ヤバめの所から紹介されたアルバイトだった。電話での事前挨拶に子供が出る。大人びたことを訊くものだ。
「それはお会いしてからという事で」
 返事をすると、なぜか不機嫌なトーンが伝わってきた。
「こんにちは、今日から家庭教師にやってきた塚本です」
 玄関ドアを開ける。二匹のヨークシャー・テリアと共に、生徒となる女の子が現れた。
 みずみずしい笑顔に体が凍り付く。少女は色白で透き通った肌をしていた。中学生とは思えない妖艶な美しさ。
 こんな子と契約するのか――。塚本は息を呑んだ。前任者はクビになったそうだ。わいせつな行為に及んだから、との理由。分かるような気がする。いや、分かってはいけない。
「ファースト、ディープ、今からお勉強だからあっちにいっていなさい」
 少女は犬にキスをした。背筋までのびた二匹は、たちまちどこかへ去っていく。
「また男の教師でよかったの?」塚本はおそるおそる尋ねた。
「この前の事は気にしてません。女の方だと、私が恋愛話ばかりしちゃうからダメ」
 男の先生でも、ダメなような気がする。動悸から頭がフラフラした。少女が顔を覗き込んできた。
 真っ黒な瞳。のぞく胸元……。そっちの趣味はなかったはずだ。慌てて視線と話題を逸らす。「犬、三匹目はいるの?」
「どうして?」少女は首を傾げた。
「三匹目はフレンチかなって」
「よく分かってるじゃない」少女は手の甲を差し出した。「じゃあ、先生。契約はどのようになさいます?」
 白い指が腕、胸を順番に指していく。最後は唇。選択肢はない。塚本は吸い寄せられていった。「ディープを、教えてください」

                                                • -


短編小説第67回、テーマ「キス」でした。
なかなか扱いづらいテーマ。
でも、えり好みしてたら、上達しないもんね……。