第21回

短編小説、昔のものの移しです。
これも一年以上前か……。
あんまり成長してないな。

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「証明写真を拾って、集めている人がいるらしいじゃない? 私の場合は名前なの」
 暗やみに包まれた、安心できる空間。少女の声が届いた。少年は首を傾げる。
「アドレス帳をいっぱいにしたいってこと?」
「違うわ。ただ、名前を集めたいの。世の中に、どんな種類の名前が存在するのか」
 個人情報をとりたいわけじゃない――。少女は付け加える。口元を釣り上げたのがわかった。
「だから、あなたのも教えて」
 構わない。少年は頷き、口を開きかける。
「だめだ。今は、言えない」
 代わりに出てきた言葉にうなだれた。
「どうして? 害は与えないよ? 知りあえたんだもの。名前から始めたいの」
「だめなんだ。それは君も同じじゃないのか?」
 少年の問いに暗やみが震える。
「信用してないの?」
「信用してるさ。だから、後で会いにいく」
「名前がないって言うのは、居場所がないのと同じじゃないの?」
 不満そうな声は、同時に不安げでもあった。
「大丈夫だよ。こうして出会えたのだから」
 僕らに時間はたっぷりとあるんだし――。少年は手足を動かす。柔らかくぶつかって、一時した後に、喜びの声が聞こえた。
「居場所は、これから作っていく。僕らは今、確かにここにいる。もう、いる」
 は笑いかける。「だから、今から自分に期待される意味なんて勘ぐらなくてもいいんだよ」
 少女はゆっくりと頷いた。そして、ぽこっと母親に伝える。
「迷わないで。そして、私を愛して」
「ごめんね。私強くなるから……。早く生まれてきて×××」
 最後の文字は、少女がリストに集めた中で、一番気に入っているものだった。
「会いにいくよ。美人になっててね」

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短編小説第21回、テーマ「名前」でした。