第19回

短編小説、昔のものの移しです。
やはり内容がないようだからか、女性が強い反応を示したことが
記憶にあります。
いつもなんの反応ももたれないからかも知れないけど。

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「やった。これで月百万の大台だわ」
 改札をくぐると勝手に笑みがこぼれた。特に目標立てていたわけではないが、やはり区切りの数字はうれしい。コンパクトをのぞき込み、濃いめの紅を引くと、上りのエスカレーターに入った。
 頭よりも体を。血よりも膣で――。導き出した持論に、表情も曇らなくなっている。体を売り始めたのは、ミナが高校に入った頃だった。
 体以外に必要な資本は、化粧道具と女子高生という社会的身分。スカートの位置を調節する。
「あ、きゃあああああああ!」
 脇に抱えたポーチが転げ落ちた時だった。大きくバランスを崩し、自らも階下へと落下する。降りる寸前の高さだったため、激しい音と衝撃をはなつ。一瞬にして静まり返る構内。
「あ、く、痛い……」
 眉をしかめて顔を上げたミナが見たものは、一斉に集まった行き交う人々の視線だった。そのすべてに、自分が映っている。いや、なぜか左利きのミナ。総勢で語りかけてくる。
「?ラタメヤトコナンコロソロソ」
 指を指された。何本もの人さし指。はね返り、はね返り、永遠と続いていく。そう、認識できなくなるまで。
 ずっと地面にはいつくばっているのに気がついて、ミナはゆっくりと意識を取り戻した。
 胸を突かれた。肝をえぐられた。
 辛いのは、彼らの瞳のように、光を反射できなくなっている自分があらわになったからなのかもしれない。
「向き合ったら、真実の自分しか見えないのは当たり前か……」
 涙が化粧を洗い落としていく。立ち上がって、再びコンパクトを取り出した。
 髪の毛はぼさぼさ、メイクはにじんでいる。そこに映っているのは、紛れもなく二十六歳、社会人のミナだった。

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短編小説第19回、テーマ「鏡」でした。