第57回

短編小説、第57回です。
この短編小説の中では、めずらしいキャラクタを出すことができたかな……。

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 天気の良い日曜だった。部屋にこもって男二人でマンガを読みふけていては、あまり良い点をもらえそうにないな――。カレンダーにいち早く×を書き込み、ヒロシは思う。
「円と丸の違い分かるか?」倉永は元気一杯に訊いてきた。その手には数学の教科書、往生際の悪いヤツは早く帰ってほしい。
「円って言うのは、中心から同じ距離に点を打っていって……」
「そう。円は正確でないといけない。厳格なんだよ」ヒロシが答えると、倉永はうれしそうに頷いた。「国語的には、円は活用ができない。まるくとか、まるいとか、まるは活用ができるけど、円はできない」
 またはじまったか――。ヒロシは読みかけのマンガに戻る。
「さらに言おう。円は丸の一種とすることができるが、丸を円に含めることはできない。つまりね、許容性があるんだよ、丸は! 寛大なんだ」倉永は興奮気味に語り続けた。「解答用紙の丸だって、歪んだ右肩上がり……」
「言いたいことがあるのなら、はっきり言いなさい」ヒロシはマンガから目を上げて、呟く。寛大なのは、ここまでつきあっている自分だ――。あの手この手で訴えてきても、中心にあるものはいつも一緒……。倉永は改まった。
「丸井ヒロシさん。丸井ハルカさん……妹さんとおつきあいをさせてください」
「……妹に聞いてもらえますか?」
「はは! それでは」
 ヒロシの返答を了承と受け取ったようだ。倉永は立ち上がり、部屋を出ていこうとする。「ところで今日、妹さんは? まだ部活かい?」
 ヒロシは、マンガを換えようと立ち上がる。「一年もテスト休みだよ。こたつで丸くなってた。お前が来るって言ったら、『部屋から出ないようにしよう』だって」やっぱり、数学の教科書を手に取った。「寛大だよな」

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短編小説第57回、テーマ「まる」でした。