第55回

短編小説、第55回です。
勘の良い方(?)は、気づくかもしれないけど、
今回出てくる「山田」という少女は、
B型H系というマンガの主人公からとっています。
もちろん参考にするくらいだから、このマンガや登場人物に対して、
嫌悪感を抱いているわけではなく、むしろかなりおもしろいと思っているので……。
ただ、かなりだめな感じの人物として借用させていただきました。
それでは、第55回。(なんなんだこの前振り……)

                                                        • -

「うー、なんで返事くれないのぉ」
 ベッドの上でだらしなく横になっている女子高生、名前は山田。年頃の彼女にとって悩みといえば、やはり好きな異性のことだ。このところ、ずっと彼氏に無視されていた。
「もう五日目だよー」メールの返信も来ない。
「まさか、シカトされてるんじゃなくて、私がもう死んじゃっているってオチでは?」暇だと馬鹿さ加減に拍車がかかるようだ。山田は急いで自分の胸を触る。うん、感じる。一応確かめてみるべく階下に降りた。
「お母さん、私、生きてるよね?」
「何言ってるの、馬鹿なこと言ってないで早くお風呂に入ってちょ……」
「ちょっと出かけてくる!」
 山田は言葉途中に家を出て行く。
「○丁目まで!」飛び出した山田をひきそうになって、急ブレーキをかけたタクシーに乗り込んだ。
「ちょっと、○丁目ってすぐそこじゃない。歩いていった方が早いんじゃ……」
「いいから! 急いで!」
 人生の一大事なのだ。有無は言わせない。山田は赤信号も関係ないようなスピードでタクシーを走らせると、「釣りはいらないから!」と、ワンメータ分の金を投げ捨てて、車を出る。目的地は彼氏の家だ。こんなに早く着くなんて、やっぱり愛の力には距離は関係ないのね――。到着すると、何度も呼出ベルを鳴らした。
「あー、もう、早く出てこいっつの!」
 ……しかし誰も出てこない。明かりの向こうで困った顔したおばさんがいるが、あれは彼の母親だろうか。
「わかったから、そうピンポン鳴らすな」玄関のドアが開いて、しぶしぶと彼が出てきた。感極まった山田は涙声になる。
「ねえ、どうして無視するの?」
 彼氏は玄関の門戸ごしにため息をつく。「こっちのセリフだよ……」

                                                        • -

短編小説第55回、テーマ「無視」でした。