第11回
短編小説、第11回。昔のものの移しです。
8日間も開いてますね……。
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
あなたの包丁、お研ぎします。
こんな看板を見たのは、金曜の夜中過ぎのことだった。無茶ばかりを言う上司とくすぶる社員との間を縦横無尽にくたびれた英子。幻覚かと思った。変な霊感商法じゃないんだろうか――
しかめる顔とは裏腹に、階段を上っていく。恐る恐るノックしてみると、「どうぞ」と、若い声が聞こえた。
「あの、包丁を研ぐって見たのですが……」
「はい。当店はお客様のお持ちになっている包丁を研ぐサービスです。今お持ちでない場合、レンタルも行っていますよぉ?」
答えたのは、くしゃくしゃの髪の少女だった。黒いマントをかぶってしっかりとした口調で話すが、まだ中学生ぐらいにしか見えない。
「レンタル、包丁をですか?」それじゃあ、意味ないんじゃあ――質問は半分までしか、声にできなかった。
「はぁい。それでもいいんです。研ぐのはあなたの包丁ですからぁ」
「……じゃあ、お願いします」
レンタルも含めて千円と言う値段に、とりあえず試してみた。シュッ、シュッと、少女は研ぎ石をこすり出す。
ぼんやりと、英子の脳裏に旅行をしている自分の姿が映った。石の階段にそって、ふるい旅館が並ぶ美しい光景。願望でもある。
「はぁい。終わりですよぉ」
英子は、一桁多いお金を置いて店を出た。
「スケジュールはどうでも構いませんので、締め切りだけは守ってください」
颯爽と部署間を移動するスーツ姿。ひそひそ声が聞こえる。
「なんか、英子さん変わったよね」
「ねえ。優しいけど、きっぱりさっぱりしだしたって言うか……」
うわさ話にまたひとり加わる。
「とにかく、切れ者になったよね」