第41回

「やっべ! こっからだと見えんじゃねー?」
 植草は図書室の窓が、曇りガラスの理由を知った。となりの校舎、上階は女子更衣室がある。「俺の身長をなめるな」しかし高窓にまで気を配られていない。背伸びした。「日頃から、見くびっているからこうなるんだよ」部屋には体操着姿の女子が集まりつつある。植草のあだ名はミラーマン
「しかしこの姿勢は不自然だな」
 怪しまれないよう、高窓の向こうを覗き込む必要を覚えた。「そうだ。図書室だし、本でも読んでればいいんじゃね?」横目でちらちら窺うつもりだ。「知的な俺をアピール!」
 植草はページを勢いよく閉じた。「座っちゃダメなんだよ。低くちゃ見えねえ」手に取った本の内容が、性教育だという事を確認してほしい。代わりの方法を練る。
「そうだ。壁に因りかかればいいんじゃね?」他の事に集中しているふりをするつもりだ。「アンニュイな大人の俺をアピールだ!」部屋の反対側に急ぐ。
 植草は地面を叩いた。「何だ、この邪魔な本棚は!」坊主頭が気取った所で、不気味なだけだという事も知っておいてほしい。「いや、同じ姿勢のままだと、見つかってしまった時に、言い訳ができないからな」さらに代わりの方法を練る。
「同じ姿勢をずっと続けていると怪しまれる……そうだ!」今度こそ正解に行き着いたようだ。彼にとっては。ひらめいた自分を天才だと勘違いし、小躍りしている。
「スクワットなんだよ!」屈伸運動の連続で顔の見える時間を極力短くし、数で稼ぐつもりだ。「体力のあるたくましい俺をアピール!」植草は笑っている。
「うわ、バカが覗いてるんだけど」女子達はすぐに気づいた。「何アレ? ぴょんぴょん飛び跳ねて、キモチワリー」
 植草は膝を痛めた。他の所はすでに壊れている。

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短編小説第41回テーマ「スクワット」でした。