根本は示されている。解決策もここに。だけど……。 水月昭道『高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院』

奥付けを見ると、2007年の初版となっている。
「高学歴なのに、ニート、行方不明、コンビニ店員……」という問題はさらに悪化して、不況と老人の天国を絡めたさまざまな症状へと繋がっている気がするが、著者が一つの新書にまとめてからもう4年も経っていることに驚いた。
何が解決しているのだろうか、と。


もう一つの大きな感想として、原発問題以降のこのタイミングで読む本ではなかったかな、ということだ。
既得権益の代表、いや、大元と言ってもよいか、とある大学への不信感がますます高まってしまった。
もちろんそこで働く大多数の職員は、非常に優秀で血へどを吐くほどの努力をしていることはおしはかるところだが、もう論文を書くことも飽きた老人たちへの怒りが、この一冊の新書でつのるほどには、私もまだまだ単純だ。


新書は嫌いではないが、この本ほど調査、下調べの充実した書籍もなかなかないのではないだろうか。
原因、事例、法改正、結果、数値……本当にあらゆる事象をつぶさにリサーチしている。
むしろこれだけ著者の言いたいことが伝わってくるのに、著者の弁は、実は少ないのでは、という気すらしてくる。
著者がこの本を通じて訴える主張が、価値観や拘りなどにまったく左右されていないことの証明でもあるだろう。


院生が博士になかなかなれない原因でもあり、博士になれない院生を増殖させている発端でもある大学院生の著しい増加を食い止める策は、この本の中に示されているように思えるが……それが解決される世の中であれば、もっといろんなことが……。


★★★★☆