第147回
短編小説第147回になります。
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バイトで入ったカフェ「ムドー」に、変わったところはなかった。
外が薄暗くなった頃にオープンし、薄明かりが差す頃に閉店する。
歴史だけが長い。この地で営んでもう二百年の老舗と言うことだった。
「よく来たァ。これ読んでおけばいィ!」
髪の毛が寂しいことになっているマスタ――主人が、バイトの教育係だった。仕事のハウツーをまとめたマニュアルを渡してくれた。
カフェのバイトでマニュアル本? 面食らったが、小さいお店だけに独自のやり方があるのだろう。
どうにも、読めない字が多い。次のシフトから、祖母から借りた辞書を持ち込むことにした。まだ任せられる仕事はなく、座ってマニュアルを読んでいればいいという。
「大きな声で読めェェ」主人は、音読を要求してきた。
恥ずかしいし疑問はあるものの、時給も高いので素直に従った。
バイトは毎回マニュアルの音読だった。席を一つ占拠して、バイトが本を読む。客は相変わらずひっきりなしに入ってくるものの、他の仕事に回される様子はなかった。
少しでも音読をやめると主人のめざといチェックが入る。顔を上げることもままならず、客が大勢いるざわめきだけを感じた。彼らがいつ店に入ってきて、いつ出ていくいるのか、把握すらできなかった。
ずっと教育期間中のままで良いのだろうか。さすがに気になって尋ねた。
「貴様はすでに労働のただ中におるゥ。お客さんにも好評じゃァ!」
気にすることはない。音読に戻れ、と主人は本堂を指さした。
これでいいのだろうか? 席に戻りつつ客達に目をやった。
客はみんな色白で、透き通るような肌をしていた。しかし、うつろな顔をしていた。
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短編小説第147回、テーマ「薄い」でした。
要するに、夏、です。