第146回

短編小説第146回、自分でも忘れていましたが、二回ものになります。
夏……ということで、最近幽霊やUFOを特集したテレビ番組を観かけなくなりましたが、まあ、かわりといっちゃあってやつです。

                                                    • -

 目の前の光景に、よし子の開いた口は、ふさがらなかった。
 鼻をつく煙の臭いと、のんきな体操の音楽だけが、この空間の動くもののすべてだ。
 朝早くのラジオ体操会場。子供達は、夏休みを迎え、元気にハンコ集めに励んでいた。
 珍客が現れたのは、ラジオ体操が、「第二」を終えようとしていた時だ。
 球体の真ん中に一枚の皿が突き刺さった銀色の円盤。丸いのぞき窓もある。UFOが目の前に現れ……着陸に失敗し、墜落した。
「体操の動きが、こっちに来いっていう合図になっちゃったのかな」
 あまりの事に誰もが固まっていた。子供の一人がぼそっと呟いた。
 考えたくはない。だが、墜落する前の動きは、明らかにこちらとコミュニケーションを図ろうとしていた。吸い寄せられるように近づいてきていた。
「あ! 出てきたよ」
 大破したUFOから這い出るようにして、グレイ型宇宙人が現れた。これもまたザ・宇宙人といわんばかりのこてこてさ加減。
「◇■↓”※々♀〓☆」
 宇宙人は、墜落のためにひどいケガをしていた。何か伝えようとしているが、宇宙語? はさっぱりわからない。怖くて近づけなかった。
「大丈夫ですか?」
 こちらの言葉は、やはり理解できないようだ。迷っていると、やはり子供の一人が思いついた。
「ラジオ体操で呼べたんだから、ラジオ体操で会話すればいいんじゃない?」
 頭が回らない。それ以外の方法による意思疎通が思いつかなかったよし子は、さっきと同じラジオ体操第二を披露した。
 伝わるか――? 宇宙人の顔が見る見る変わっていく。
 読み取れる感情は……怒りだった。

                                                    • -

短編小説、第146回、二回ものの前編でした。