第145回

短編小説第145回となります。
なんか、結構間があきますね。
さっさと更新するようにしないと。

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 コンピュータ力学においてトップクラスの権威を誇るM大学の教授から、全世界に対してメッセージが発信された。
 膨大な計算量を処理できるコンピュータを求む――。
 教授の元に一人の少女と一匹の豚が救いを求めてきたことが発端となっていた。
 少女は、この豚こそが自分の父だという。
 悪い魔法によって姿を変えられてしまったが、元に戻す方法も見つからない。
 豚となってしまっても、親は親。
 役所に対し本人と証明するため、コンピュータの力でどうにかできないか。
 少女は、そう頼ってきたという。
「そこで声紋、虹彩など総合的な観点からの認証プログラムを作成した」教授は言った。
 しかし相手はそれでも豚だ。
 人間だったころのデータと比べて同一性を量るには、莫大な計算がいる。それをこなすには、M大学の設備では不可能らしい。
 少女の悲痛な呼びかけに、各大学機関・企業のスーパーコンピュータが参戦した。
 しかしM大学のコンピュータですら、根を上げるほどの計算量は、彼らにとっても莫大な時間を要した。
 結果がはじき出される予定時間に目が飛び出た参加者は、やがて解析をあきらめた。
「連盟でクラスタコンピューティングでも構わんのだよ、参加者はもういないのかね?」教授は尋ねた。
 何台コンピュータをつなげても、生きている内に結果が見えるかどうかの話だ。参加者は首を振った。
「そうか。じゃあ、私の勝ちだ」教授は高らかに笑った。「我が大学の開発した新CPUなら、この計算を一年で完了させることができる。君たちが、束になってもこのCPUにかなわないというわけだね」
 M大学が開発した新CPUは、その後五十年世界最速の座を譲らなかった。

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短編小説第145回、テーマ「クラスタ」でした。


……コンピュータ関係の仕事以外についている人が、クラスタって言われても、パッとイメージ湧くかな。
まあ、しりとりなんであしからず。


Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)