変えられない未来を強く生きる 重松清『流星ワゴン』

流星ワゴン (講談社文庫)

流星ワゴン (講談社文庫)

ちょっと前に結構売れていた本だと思ったが、自分的にもそろそろその先入観がなくなっただろうと読んでみた本。
これが、大正解だった。


いつもの通りネタバレにならないようにこの『流星ワゴン』を説明してみると、
死のうと思っていた男が死んだはずの親子が乗るオデッセイ(つまりこれがワゴン)に拾われるところから、メインのストーリィが始まる。


ワゴンは現実とは違う時空間を旅していて、死にそうな人の前に現れ、その人の大切だった人生の場面、場面……つまり過去をやり直しさせるのだ。
この「過去をやり直しさせる」というのが、この物語の重要なポイントになってくる。


過去をやり直しできる、ということは、誰もが人生をやり直すことができると想像してしまうだろう。
しかし、そうそう甘い世界ではない。
ワゴンに乗った人は、過去をやり直しさせられるだけ、なのだ。
やり直しした結果が、未来に向かうわけではない。
「現在」はもう起きてしまっているから、過去をどうやり直そうが「未来」は変えられないのだ。
ちょっとわかりにくいかもしれないけど、ワゴンの乗客は「過去をやり直す」だけで、同じ結果に向かう過程――すでにわかっていることを、やり直しする。
リピートするだけなのだ。


なぜ、そんな意味のない、つらいリピートさせるのか?
なぜなら、その人にとって、「現在」を作る大きな分岐点となった大切な場面だったからだ。
その後悔を、改めて噛みしめさせられる。
これが死のうと思っていた男にどう影響してくるのか――。


父親であり夫であるこの男(主人公:永田)の情けなさ……しかしやるせなさをこうも描ききったのは、重松先生、本当にお見事。
まっすぐでポジティブな生きるための希望……ではなく、悔しくて、辛くて、それだからこそ生きていくそんなリアルな「やるしかないんだ」感。
すばらしい一冊だった。


★★★★★