第144回
短編小説第144回です。
世間は、iPhone4の発売で話題がもちきりですが、こちらも4並びです。
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夕方になると、マテラスは毎日一回の食事を囚人達に運んだ。
もう欲望を引き起こすものが目に入らぬよう、眼球をくりぬかれている。それほど、ひどい罪を犯した連中だ。
見習いとは言え、神の使いの仕事ではない。エリートコースとは、とても言えなかった。
牢獄には、明かりも必要なく、歩くのにも苦労する。
マテラスは、こんな境遇でも満足していた。
自分には、他人に誇れるような能力がない。ただ真面目に、自分の役割をまっとうしよう。そう考えていた。
「ほどこしかよ! ふざけんじゃねえ!」
入ったばかりの囚人には、マテラスに八つ当たりする者もいた。
大抵の新入りは、目玉を取られてイライラしているしている上に、マテラスのような子供が監守だと、怒りを抑えられない。目が見えない彼らは、マテラスを近くに呼んで、疲れるまで殴りつけた。
特に、今回の新入りはすさんでいた。
「おい、もうやめねえか」見かねたまわりの囚人が、彼を止めた。
「うるせぇ、ほっとけよ!」
「マテラスに当たっても、何も解決ねぇよ。お前にもわかるだろう?」
「こんなめくらにしやがったのは、あいつらだぞ?」
「そうだ。神の手先だ。じゃあ訊こう。お前、眼を失ったばかりなのに、どうしてマテラスが来るのがわかる?」
新入りは唸りながらも食い下がった。「なんかよう、あいつが来ると、暗闇にぽっかり光が浮かぶんだ。イラついてしょうがねえ」
窘めていた囚人は、大きく頷いた。「そうだろう。俺たちには、もうあの光しか残ってねぇんだ」
マテラスは今日も真っ暗な監獄の中を食事を配るために歩いた。
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短編小説第144回、テーマ「ろうそく」でした。
Photo by (c)Tomo.Yun (http://www.yunphoto.net)